不動産登記の価値 ~青山の担保価値?~
2015.12.07
「そういえば、横田さんに聞きたいことがあったんですけど・・・」
ウッドワーク社の応接室では、調査会社の横田と審査課長の中谷、青山の情報交換がまだ続いていた。
「先日、東京が本社で岐阜県にプレカット工場を持っている会社の報告書を読んだんですけど、岐阜県の社有工場の不動産登記が添付されていました。以前に、報告書では本店と同じ都道府県の不動産登記しか添付されないと教わったような気がしますが、そういうこともあるんですね」
「これからはそういうものが増えていくと思います。調査報告書の不動産登記については、以前から調査員が信用判断に不可欠と判断したものは所在地がどこであっても取得することを原則としていました。ただ、登記を法務局で見ていた頃は現実的に対応しきれないことが多く、調査事業所の管轄内をベースとした閲覧が大半になっていました」
「私も何度か登記を取得しに法務局に行ったことがあるわ。印紙を貼ったり、不動産地番を調べたり、それなりに手間がかかったけど、当該物件をどの法務局が管轄しているのかとか、法務局がどこにあるのかとか、そういうところから調べた記憶があるわ。へえ、こんなところにあるんだ、てね」と中谷が口を挟んだ。
「僕は法務局に行ったことはありません。なかなか用がないですから」
「まあ、インターネット登記の時代になって、私たちも法務局に行くことは減りましたからね。行くときは閉鎖簿を確認したり、工場財団や船舶の登記を見たりするときぐらいです」
「工場財団の登記なんてあるんですね」
「ありますよ。工場の土地や建物、設備や特許権などを法律上ひとつの不動産としてまとめて登記し、担保に入れることがあります。登記は権利関係を第三者に示すためのものですから、それを担保にお金を借りるときにはそういう登記を行うんです」
「うちは業種柄、審査でお目にかかることがあまりないから、青山が知らなくても仕方ないわね。それで、管轄外の不動産も添付することが増えるというのは、どういうことなの?」
「地番の特定とか、難しいこともあるんじゃない?」
「ええ、そのあたりの実務負担はありますけど、地番がわかっているものもありますし、専門部署があってノウハウもあるので、ある程度は対応可能だと思います。ただ、その会社の関連不動産をすべて見るということではありません。社有不動産を主体に、担保状況や担保余力を明らかにしておく必要があるものについて、調査員が判断して取得します。ただ、与信判断にあまり役立たないものまで添付しても、お客さまにとってコスト負担が増えてしまいますので、そこは私たちのほうで選別します」
「確かに、東京だと事務所だけ東京で、社有の工場が地方にあるケースは多いから、そういうところをちゃんと見てくれるのはありがたいことだわ。取得する不動産の選別というのは難しそうだけど」
「そうなんです。ケースバイケースですからね。固定資産の保有状況は決算書でもある程度裏付けがとれますから、そうした資料の入手状況とも関係してきます。ただ、不動産はやはり資金調達の源泉として担保余力を見たいケースが多いですから、そういう場合に必要な不動産をしっかり添付できればと思います」
「そうね。担保関係は重要よね。青山も担保価値の高い人になってもらわないとね」と中谷が笑った。
「え?まさか、私もどこかに担保として供出されているんですか?」
「一応担保には入れているけど、まだ値上がり期待の安物件だから」
「中谷さんは厳しいなあ。私も価値を上げる手伝いはしていますよ」と笑う横田を見て、青山も力なく笑った。
不動産登記の添付範囲
今後については横田が説明したとおり、ネット上で確認できる物件については信用判断上の必要性を勘案した上で、地理的な制約なく取得・添付する形になります。調査報告書上に従来表示していた「管外につき登記未確認」という表示も、今後はなくなります。
調査報告書では「不動産登記写」という形で不動産登記の情報を提供していますが、これをどれだけ重視するか、あるいはどういう見方をするかはお客さまによって異なるところがあります。
一方、調査実施側としてはその会社の信用判断において必要性を判断するため、添付範囲は基本的に報告側の判断によって行っています。つまり、お客さまが不要と感じられても、報告をまとめる側の必要に基づいて取得・添付されます。
なお、ニーズにより特定の不動産の添付を希望される場合は、調査をご依頼いただくときに指定事項として不動産地番(わからなければ住所)をお伝えいただくと、個別に対応することができます。ご利用ください。
不動産登記の価値
近年は法整備とともに営業債権や設備、商品在庫といった動産が担保として供与される場面も出てきていますが、これらは未だに事例が新聞や専門誌に取り上げられていることからもわかるように、まだ不動産担保ほどは普及していません。
半面、企業側の資産蓄積の形も変わってきており、昔は「いずれは自社ビルを建てて・・・」という経営者が数多くいましたが、今は価値観が多様化しています。都市部の新興市場の企業では、拠点はすべて賃借という身軽な営業をしている会社も多数あり、こうした背景により金融機関側にも担保に頼らない融資の判断軸、つまり「事業の将来性」や「ビジネスモデルの良否」を目利きすることが求められている側面があります。
ただ、預金を原資に融資を行う金融機関が預金者保護のために融資の回収・保全に手を尽くすことに変わりはなく、その有力な手段である不動産担保がなくなることはないでしょう。
与信判断の場面においては、不動産登記はその不動産の資産価値を算定する材料になるだけでなく、所有関係の裏付け、担保設定状況による取引金融機関の特定や根抵当権・抵当権の極度額、その変化による企業状態の推測など、多くの材料をもたらす情報源と言えます。企業信用の判断軸が不動産に傾斜した時代は終わったとしても、不動産とその登記の重要性が損なわれることは今後もないでしょう。
若手の審査担当者には、今後も審査の基礎知識として不動産登記の重要性や見方を教えていく必要があると言えます。