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  • 決算書を見る力とは(後編) ~月商比と科目の性格~

2016.02.01

[企業審査人シリーズvol.106]

新しくオープンしたイタリアンレストランでの決算書談義は、料理のオーダーの後も続いていた。
 新しいお店で決算書談義に集中するふたりは招かれざる客と言われそうだが、「決算書を見る力」をつける具体的な取り組みについて課長に宣言するネタを得たい青山は、木下から具体的なものを引き出そうと食い下がった。

 「決算書を見る力として業界ごとの特徴を把握することと、財務諸表間の繋がりを意識するとよいということはわかりましたが、もう少し即実践で使えるようなポイントってありませんか?」
 「石の上にも三年…じゃあ可哀想ですね。会計事務所にいた時のテクニックを話しましょうか」
 「そうそう、そういうのを聞きたかったんですよ!」
 「あんまり期待されてもガッカリするかもしれませんが・・・・月商ベースで考える、というものです」
 「月商ですか…。具体的にはどのようなアプローチですか?」
 「貸借対照表と損益計算書を渡されたときに、ひとまず頭の中で売上を12で割ります。概数でいいので、その月商に比べて多いBS科目からアプローチしていくんです」
 「有利子負債月商倍率は月商比から借入の重さを求める指標ですが、そんな感じですか」
 「月商に比べて棚卸資産や売上債権・仕入債務はどの程度か、という観点は、回転期間の把握につながります。月商に比べて特出して多い科目はやはりチェックが必要ですからね」

 青山が物足りない顔をしているのを見て、木下は運ばれてきたキッシュをつまみながら言葉を加えた。
 「それと、科目の特徴とか性格を知ることも大切です。青山さんは資産性という言葉を聞いたことはありますか?」
 「ちょっとぼんやりしていますけど、のれんの話題で耳にしたかな。のれんの資産性にはいろいろな意見がある、というのを会計基準の違いから説明してくれましたよね」
 「まずは、そういうイメージです。明確に言い切ることはできないかもしれませんが、例えば、貸借対照表に計上された金額分だけ、必ずしも資産価値があるわけではないと言うことです」
 「換金価値が大切だ、ということですか?」
 「観点としては間違っていません。例えば繰延資産の資産価値を考えたとき、将来にわたって効果があらわれる特定の費用とされているため、売却して換金できる資産ではないですよね」
 「なるほど。売掛金や棚卸資産は回収や売却をして、いずれはキャッシュになる資産だけど、のれんは売却できない資産。そんな感じですか?」
 「そうそう。土地や設備の時価を把握するのは大変ですが、こういう清算価値を考える目線も大切です。仮払金や仮受金といった科目はそれだけでは資産性が判断できませんから、額が多い場合は要注意ですね」
 「仮受金というのは負債科目ですね・・・資産に比べて負債はいつも借入の確認くらいで終わっています」
 「借入は中小企業ではディスクロージャーを想定していないので、実務上、借入金を短期と長期に分けずに一括して固定負債に計上してしまうケースがありますよね。一年以内の長期借入金が短期に振り替わっていないことが想定できます。それに、借入金の科目のうち社長からの借入金が含まれていれば、金融機関からの借入に比べて返済の後回しが許されるので、これを自己資本と見る考え方もあります」
 「科目の性格については今まで以上に注意して見ます。決算書を見る力を養うというのは、やっぱりそういうことをひとつひとつ積み重ねていくしかないのでしょうかね」
 「調理師資格をとるとか、料理コンクールで入賞するといったことはわかりやすいですけど、その中身の実力は目に見えるものじゃないですから。こういう本を読んでみたら?とか、こういう資格を取ってみたら?と言うこともできます。ただ、そういうことは青山さんもある程度知っているでしょうから、本当の実力をつけるためのOJTでの着眼点を話したつもりです。もちろん、勘定科目を紐解くには簿記の学習が有益ですけどね。日々の案件で今日お話した着眼点を忘れずに持ち続けるというのは、意外と難しいですから、習慣にしやすいものから実践していくといいんじゃないでしょうか?」
 「そうですね。簿記1級をとる、というのはわかりやすいですが、形式的ですからね。教えていただいた着眼点を整理して、日々意識したいこととして中谷課長にも報告したいと思います。」と青山が納得した様子なのを見て、木下が店員を呼んだ。
 「ティラミスとダージリン・ティをください」
 「申し訳ございません。ダージリン・ティは置いておりません・・・」と店員が申し訳なさそうに答えた。
 「木下さん、イタリアンですよ。やはりエスプレッソでしょう。科目の選択ミスですね」
 「私にも科目の好き嫌いはあるんですよ」と木下が残念そうな顔をした。 

月商と比べてみる

 「月商比」は決算書を読み解く上で有用なアプローチです。以前のコラムに「数字が嫌いな社長にも、とっつきやすいように月商ベースで話をすすめる」といった木下のエピソードがありましたが、月商という尺度は様々なシーンで活かすことができます。
 例えば、売上債権回転期間や棚卸資産回転期間をはじめとする回転期間や、有利子負債月商倍率はいずれも月商比から求められる重要な財務分析指標です。
 財務分析に苦手意識があり、決算書をもらった時にどのようにコメントしたら良いか分からないという営業の方にも、月商比という観点をもつことで視野が広がります。 
 エピソードでは貸借対照表における話題が中心でしたが、例えば月次推移の損益計算書を見る機会があれば、平均月商を軸として各月の売上を見れば、繁忙期の有無を確認することもきます。

勘定科目の性格を知っておく

 勘定科目と耳にすると、簿記の勉強と身構えてしまう方も多いかもしれませんが、決算書を読み解く上では、個々の勘定科目までブレークダウンすることは必須のプロセスとなります。 貸借対照表の勘定科目においては、「いずれ他の科目に変わるもの」が多く含まれています。例えば、売掛金や買掛金、借入金は現預金の増減につながりますし、建物をはじめとする償却性資産は費用化されます。勘定科目の性格を知っていれば、今後どのように展開していくのか、事業の将来を予測するうえでのヒントになるでしょう。
 単純ですが、決算書を見たときに、それぞれの勘定科目にどのような意味があるのか改めて気をつけてみると良いでしょう。見慣れない科目をより深く理解したい場合は、どのようなケースででてくるのか(会計的に言うと「どのような仕訳がされるのか」)を掘り下げることが、決算書を見る力を養うことにつながります。
▼前編はこちら
決算書を見る力とは(前編) ~財務諸表のつながり~

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