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  • 成長性分析の話 ~アバンギャルドでインテリジェント~

2015.12.22

[企業審査人シリーズvol.103]

経理課の木下はその日、営業部のメンバーと居酒屋にいた。審査課の宴席にはたびたび呼ばれて参加していた木下だが、営業部員と飲むはこの日が初めてだ。
 最近になって、営業部から取引先の財務内容について電話で相談を何度か受けていた。通常、そうした電話は審査課に回るのだが、もともと営業部にいた青山が財務に詳しい人がいるという話をベテラン営業部員の八木田にしたようで、人なつっこい八木田が早速相談の電話をかけたのであった。

・・・というわけで人なつっこい上にお酒が好きな八木田は、「お世話になったから」と、同じ営業部の新入社員・東山を連れて、約束の居酒屋に来たのであった。
 「八木田さん、東山さん。電話で少し話したくらいで声をかけてもらって、ありがとうございます。」
 木下がさわやかに挨拶した。
 「いやぁ~、木下さん。決算書で困ると今まで審査に相談していましたけど、経理にも聞ける人が出来て助かりますよ」と、八木田がこたえた。
 「ハイ!いつもお世話になっております」と元気よく続けたのは、新入社員の東山だ。
 「東山さんは、いろいろと覚えなければいけないことが多くて大変ですね。私も、会計の世界に入ったときは、学んできたことと実務のギャップに苦しんだ時期がありましたよ」
 「営業の仕事は学んできたことがないので、全部勉強です。決算書についても学生時代にまったく見る機会がなかったので、勉強しておけばよかったと思うことがあります。八木田さんに聞いたり、木下さんに聞いたりして何とかやらせてもらっています」
 「前線の営業が知識を持っておくことは大切だけど、自分だけで何ともできないときに社内で助けてくれる人脈を作っておくことは大事だよ。今日連れてきたのも、そういう助けてくれる人を作ることが目的だから、わかっているよな!」と八木田に肩をポンと叩かれると、「もちろんです」と東山は新人の教科書のような返事をした。
 「早速、木下さんに聞きたかったことがありまして…」と東山は話を続けた。
 「決算書から会社の成長性を見極める方法って、何かありませんか。将来有望な会社にアプローチしたいので、ぜひ教えていただきたいのですが・・・」
 「営業も僕みたいに長くやっていると、会社のムードとか社長の話しぶりとか、肌感覚で勘が働くことがあるけど、東山はまだそういう経験がないからな」と八木田が笑いながらも、ちょっと困ったような顔をした。
 「そうですねぇ。それはとても難しい質問です。あくまで決算書は過去に起こったことの集積のようなものなので、そこから成長性を見抜くというのは至難の業です」
 「でも、木下さんならなにかヒントをおもちでしょう?」と、新人の東山はなかなか粘り強いところを見せた。
 「決算書を保全のための審査に使うんじゃなくて、攻めの視点がほしいということですね?」
 「そう!言うなれば、アバンギャルドな決算書の見方、というやつです」と八木田が意外な言葉を使った。
 「意味がよく分かりませんが・・・」と木下は困惑しながら続ける。
 「一応、成長性分析というのはあります。一番基本的なのは、売上高や利益の増加率推移を見ることです」
 「決算書の経年比較というやつですか」と優等生的な東山はメモをとり始めた。
 「アプローチしたい会社の各指標の趨勢を見てみるのです。すこし手間はかかりますが、過去5年以上の売上や利益、自己資本といった値を並べて、各項目がどのように動いているのかを表にするのです」
 「でも木下さん、それも過去の分析でしょう?アグレッシブじゃないですよね」と八木田はアグレッシブだ。
 「まあまあ、八木田さん。重要なのは、それをどう見るか、ですよ。成長過程だけ見るなら簡単ですが、そこから会社が落ち込んだ後の立ち直るスピードとか、柔軟性といった側面を見ることが大事なんですよ」
 「ということは、もっと長いスパンの決算書が必要になりそうですね」と東山が目を輝かせた。
 「なかなか鋭いじゃないですか。あと、会社の今後を見極める材料としてはキャッシュフロー計算書の分析も有効です。お金の流れが一目瞭然ですから、営業CFや財務CFで調達したお金を、投資CFに投下している状況が把握できます」
 「それはなかなかインテリジェントな分析ですね」と、八木田が少し不案内な道に踏み込んだような、コンサバティブな顔をしながら、長年の営業経験を活かして話を合わせた。
 「ところで八木田さん、東山さんの成長性はどうなんですか?」
 「たまにラピッドすぎることもあるけど、飲み込みがスピーディーで期待できます。この勢いをキープしろよ」
 「ハイ!猪突猛進で頑張ります!」と、本物のイノシシに見えなくもない東山を、酒の入りとともにルー大柴的な用語が増えた八木田がほほえましく見る姿に、クールな木下も思わず和んだ忘年会であった。

成長性分析

 会社の成長性を見る方法として、売上高増加率や経常利益増加率、また、自己資本増加率などの指標を分析するアプローチがあります。
 いずれも、前期比での各科目の増加率を見る指標であり、長いスパンで趨勢を見ると、会社の成長過程のみならず、ショックに対する立ち直りのスピードを確認することができます。
 リーマン・ショックなど経済全体に影響の大きかった事象を節目として、以降の成長過程を同業他社で比較すると、柔軟性や競争優位性の裏付けを確認することができます。こうした観点はわれわれ調査会社の報告書にも活かされている視点であり、業績の頁に6期分を並べているため、リーマン・ショック後の立ち直りの度合いが一目瞭然です。
 また、研究開発費を多く使うような業種では、売上高に占める研究開発費の割合の推移を見ながら、新商品や新サービスとして成果につながっているか、という視点で分析することができます。
 成長性分析には他にもさまざまな切り口があり、決算書には示されない従業員数の増減を見るといった観点もあります。複数の指標を組み合わせて会社の成長過程を追ってみると、良いヒントを得られます。 

キャッシュフロー計算書(以下CF計算書)

 資金の流出入を表す財務諸表であるCF計算書は、損益計算書に比べ客観性が高く、キャッシュフロー経営の指標として重要視されています。一方で、CF計算書の作成は金融商品取引法によって主に上場企業には作成義務がありますが、中小企業では義務化されておらず、まだまだ浸透していないというのが現状です。
 TDBでは決算書が2期連続で入手できている場合に、独自の方法で推定計算しCF計算書を作成・提供しています。「本業でしっかり稼げているか」「借金返済は順調か」といった審査の視点に加え、「どれだけの資金を投資に振り向けたか」、つまり「将来の成長に向けた布石を打っているか」といったことも確認できます。逆に、会社の本社社屋といった高額な資産を売却処分している場合は、資金的に厳しい状況に迫られて行っているケースも多いことから、事業の縮小、ひいては倒産の可能性も浮かび上がってくることがあります。このように、成長性の目利きにCF計算書を活用することができるでしょう。
 
  
 

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