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2016.09.13

[企業審査人シリーズvol.122]

繁忙期を乗り越え、「財務知識強化計画」に基づいて勉強会を再開した青山だが、今日も経理課の木下と会計談義をしている。といっても今日は、終業後に大衆居酒屋で飲みながら、という二人にしては珍しいパターンである。とりあえずのビールと、お通しの「かぶ」の漬け物が運ばれてくるなり、青山が言った。
「最近気付いたのですが、資産計上される株式や社債は色々な勘定科目で登場しますよね?あれって、どんなルールで分類されているんですか?」
青山にビールジョッキを突き出した木下の顔には(ビールが来たんだから乾杯が先でしょう)と書いてあるが、声には出さない。遠慮ではなく、上品なのである。青山が忘れ物に気づいたようにジョッキを合わせた。
「株や社債を総括して有価証券と呼ばれるのは知っていると思いますが、それぞれ会社がどういう目的でそれらを持っているのかで、区分が変わってきます。青山さんは株の売買をしていましたっけ?」
シャクシャクと木下が「かぶ」を食べつつ聞き返した。漬物の似合わない男だが、嫌いではないらしい。
「NISA(ニーサ)口座を去年開設しましたよ。でも、わからないことが多くて、結局何もしていません・・・。いずれは投資の勉強もしたいと思っているのですが」
「個人でも株の売買が盛んになってきましたよね。では、株の売買は何のためにするのでしょうか?」
「オーソドックスなのは株の値上がりによる利益を期待した目的ですよね」
「そうです。時価の変動により利益を得ることを目的とした有価証券は、『売買目的有価証券』として流動資産に計上されます」
「売買処分の時に儲かっていれば売却益、損してしまったら売却損が計上される、というやつですね」
「はい。『売買目的有価証券』は期末時価にて評価することも、セットで覚えておきましょう」
「えっ?まだ売っていないのに評価損益が出てしまうということですか?」
「そうなんですよ。厳密には未実現利益になりますが、株式市場により直ちに換金可能だから時価評価するルールです。では、他社の支配を目的として株式を保有する場合の勘定科目は、わかりますよね?」
「それはわかります。『子会社株式』や『関連会社株式』ですよね。決算書で見たことがあります。確か固定資産の中の、投資その他の資産に計上するんですよね?」
「正解です。このケースでは短期の売買目的ではないことから、原則として取得原価で計上されます」
「原則?時価評価することもある、ということですか?」
「はい。市場価格の回復見込みの無い株価の大幅下落や、著しい業績悪化があったケースは簿価を切り下げます。これを強制評価減なんて呼びますね」
「なるほど。さすがに取得原価で計上しておくのは適当でないケースに評価額を切り下げる、ということか」
「さて、ほかにも2つ分類があります。株式だけではなく社債も有価証券に該当しますよ」
「社債の保有目的って、単純に満期までお金を貸しておいて、利息を受け取ることでしょう?」
「そのとおり。したがって『満期保有目的債権』に分類され、計上される勘定科目としてはワンイヤールールによって流動資産の『有価証券』か、投資その他の資産の『投資有価証券』として計上されます」
「時価はなさそうですし、取得原価で計上するんですよね?」
「取得原価か、償却原価法のいずれかとなります」
「減価償却ではなくて償却原価ですか?」と、青山がジョッキをあおりながら聞いた。
「償却原価法というのは、例えば額面価格よりも安く社債を買った場合に、満期までその差額を取得価額に加減する処理です。時価評価ではなく金利調整に伴う処理と言ったイメージです」
「有価証券の分類は思ったよりも奥深いですね・・・。でも、はっきり目的を決めずに持っている場合もあるんじゃないですか?」と青山が絡むと、木下は(そんな質問を待っていた)という顔をしている。
「その場合は、『その他有価証券』に分類されるのですよ。満期保有目的と同じで、ワンイヤールールによって流動資産の『有価証券』か、投資その他の資産の『投資有価証券』に計上します」
「ついでに、『その他有価証券』に市場価格のある銘柄があれば、やっぱり時価評価するんですか?」
「時価評価をしますが、処理方法は2パターン用意されています。評価差額を純資産に計上する『全部資本直入法』と、評価差額のうち評価益は純資産に計上し、評価損を損失として処理する『部分資本直入法』とがあります。どうです?ややこしいでしょう」と、木下はまたうれしそうな顔をしている。
「保守的に行くなら評価損のみをPLに計上する『部分』、未実現損失もPLに反映しないのであれば『全部』という感じですね。ちょっと難しかったですが、今日の内容を帰って書き起こして整理しておきます!」
お通しに出された「かぶ」を食べ終えた青山が居酒屋の2階の窓から外に目をやると、なぜか道向かいにスーパーカブが5台も停まっていた。つくづく「かぶ」づくしの一日となったようだ。

有価証券は保有目的別で分類

木下の説明にあったように、有価証券についてはその保有目的によって計上する科目を決定します。整理すると図のようになります。なお、いずれの有価証券についても売却時の価格が簿価を上回っていれば売却益、下回っていれば売却損が損益に計上されます。

有価証券の期末評価

有価証券の期末の評価についても整理すると、図のようになります。なお、その他有価証券の評価については時価で行いますが、評価損を費用として認識しない全部資本直入法と、認識する部分資本直入法があります。その他有価証券における評価益については売買目的有価証券とは区別し、収益認識しません。ここは「予想の利益は計上せず、予想の費用は漏らさず」という、保守主義の観点の表れと言えるでしょう。

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