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  • 会計事務所と調査会社・異種交流会(後編)

2017.04.04

[企業審査人シリーズvol.134]

会計事務所出身の経理課・木下と調査会社の調査員・横田を引き合わせた4人の酒宴はまだ続いていた。お酒のちゃんぽんで目がすわりはじめた審査課長の中谷は、いつものように青山をつかまえて「最近、少し油断してない?」などと、ライトに絡み始めていた。その横では、調査会社の横田と経理課の木下が2人で話を始めている。異種で初対面の二人だが、フィーリングが合うようで、雰囲気の良い会話になっている。
「僕ら調査員は、決算書の分析と言えば経年比較か同業他社比較ですけど、会計事務所で使う財務分析というのはどんな感じですか?」
 これだけ酒量が進んでもなお仕事の質問をしてくる横田は、さすが「江戸前」とあだ名が付くだけの真面目&さわやかである。付け加えると、酒にも強い。会計事務所というあまり絡まない世界に興味があるようだ。
「私たちの財務分析は与信目線ではないので、決算時点での振り返りや、顧問先の問題抽出をする際に活用することが多かったですね。ただ、分析項目や同業他社と比べてみるといった手法はだいたい同じですよ」
「日常の業務は、やはり依頼された経理業務や決算書作成が中心なんですか?」
「まあそうですね。決算書や税務申告書は作るまでも大変ですが、それだけではなくて、決算書の中身を社長に説明して、納得してもらった上で税務署や金融機関に出さなければなりません。その過程で、経年比較など財務分析をよく行っていましたね」
「当然、クライアントから税理士や担当者としてのアドバイスを求められることもあるでしょう?」
「その通りです。ただ、私たちはコンサルタントではないので、画期的なアイデアが出せるわけではありません。医者に例えるなら、大規模な外科手術はできないが内科的な治療を親身になって行っていく、というのが会計事務所の役割だ、というような認識でしたね」。
「なるほど。僕らの仕事は“広く浅く”といいますが、会計事務所が“狭く深く”といっても、守備領域は重なるわけですね。ただ、僕らも単に調査をするわけではなくて、調査先やお客さまの課題解決に役立ちたいという思いが常にあります。クライアントの課題解決という点では、どんな関わりをしていましたか?」
焼酎水割り6杯目とワインのデキャンタ3杯目とは思えない会話が続いている。
「そうですねぇ・・・。まず、どの会社も決算書・申告書を作成するというゴールは毎年定められていますから、私たちの場合は当然ながら経理面のやりとりが主でした。ただ、その会社が抱える財務面の問題や課題というのは、月次の試算表や決算書を作っていく段階で、ある程度見えてきましたね」
「それは、僕らができあがった決算書を分析するよりも、ずっと手前の段階ですね」
「そうです。日々の取引の集積が決算書に繋がっていきますので、会計事務所目線で、その会社の“習慣”が見えてきます。決算書の作成過程で見えていたものが、出来上がった決算書を分析してみて、やっぱりウィークポイントだったんだと確信に至る、というイメージです」
「“習慣”ですか。わかっているけどついつい・・・みたいな社長の悪いクセみたいなものも見えるんですか?」
「わかっているけど・・・もありますが、社長自身が気づいていないことも多いですね。こちらが指摘して、ハッとする社長もいました。例えば、心配性な社長の“多くの在庫を持っておきたい”という心理が、“デッドストックが目立つ”という会計上の現象として表れている、といようなことでも、会計書類を見て気付きにつながります」
「そうか。そういうところにも社長の個性が出てくるんですね。社長の癖を決算書から探す、というアプローチは面白そうだな。ただ、その会社の課題を見つけて解決策を提案するのは、簡単じゃないですよね。僕らも仕事柄多くの社長と会いますが、個別の会社との接触は多くても年数回。その数回でどれだけその会社を正しく理解できるかが僕らの腕なのですが、課題発見や課題解決まで踏み込むにはやはり時間がかかります」
「私も担当の会社を持った1年目は、社長のタイプを見極めて、徐々に信頼関係を築いていく感じでしたよ。会計の観点から“ダメ出し”をしたくなるようなことがあっても、最初は極力控え目のトークを心掛けていました」
「いろんな社長がいますよね。寡黙な社長だったり、見た目が怖かったり・・・」
「私は建設業のクライアントが多かったので、職人気質の社長が多かったですね。そういうタイプの社長は、弱点や悩みを人に相談することに抵抗があったり、数字面に苦手意識を持っていたりする人も多くて、担当としては手強さがある反面、やりがいもありました。老練の社長にしてみれば、私なんて青二才ですから」
「木下さんは、どうやって個性的な社長たちとの信頼関係を築いていましたか?」
「その会社の弱点や課題とみられるポイントを、とある別の同業者が抱えている課題と仮定して話す、というテクニックを先輩に教えてもらいました。例えば従業員の定着率に課題がある会社の場合に『私が見ている他の建設業でも、従業員の定着率アップのために苦戦しているみたいですよ』と、いった具合に話してみると反応が良かったりしました。私より多くの会社を見ている横田さんなら、ここでもっと実例が出せそうですね・・・」
「同業者という言葉が出てくると、経営者は余計に気にしてくれますよね。僕らも『うちは他と比べてどうなの?』と、よく聞かれます。でもそこで聞かれたことにひとつひとつ答えるところから、もっと大きな課題を相談されたり、こちらから指摘したりといった関係が発展して、課題解決のお手伝いができることも出てくるんですよね」
「そうですね。そのあたりは経験も大事ですね。課題解決に役立つためには相手の立場に立って考えるのが基本と言われますが、会計事務所に入った頃に先輩から、『経営者は孤独だから、むしろ良い聞き手になり、つぶやきを拾いなさい』とアドバイスされたのを思い出しました」
「社長は孤独ですよね。立場的に悩みを相談できなかったり、相談できる相手がいなかったりしますからね。そういう社長の相談相手や助けになりたいし、なれる、というのが僕らの共通するところかもしれませんね」
ここで、悪酔いした中谷に絡まれ続けていた青山が、「まずは僕の助けになってください!」と2人に助けを求めてきた。横田が「青山君、課長も孤独なんだよ」と肩を叩くと、一同は大笑いし、交流会はお開きとなった。

経営課題の抽出

どんな会社であっても、大小様々な課題やリスクを抱えているものです。木下が話したように、決算書は日々の経営を積み重ねてきた結果であり、そこに“悪い習慣”が現れてくることがあります。ただ、自社の決算書だけを見ていては、それに気づかないことも多く、同業者の数値と比較するなどの分析が必要になります。一方、決算書に現れない定性的な課題が潜在していることも多いため、経営課題の解決につながる「気づき」を得るには、現場レベルで些細なことでも意見を出し合う場を設けたり、外部の目を積極的に入れて意見を聞くといったことも重要になるでしょう。会計の観点で専門的な目を持つ会計事務所はもちろん、調査会社の調査員も「外部の目」になります。なお、財務数値の業界平均等を参考にされる際は、このコラムでも何度かご紹介したTDBの「全国企業 財務諸表分析統計」をご活用ください。また、TDBの信用調査において決算書を開示いただいた場合、同業他社比較や経年比較(2期以上のご提供時)ができる「財務分析表」を無料でご提供するサービスもございます。弊社営業担当に遠慮なくお申し付け下さい。

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