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  • 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準 ~会計登山~

2017.07.04

[企業審査人シリーズvol.140]

とある休日、審査課の青山と経理課の木下は、秩父の山中を歩いていた。夢の中の話ではない。このところ少し体重が気になると言う青山を、登山を趣味としている木下が日帰り登山に誘ったのである。秩父の山と言っても、初心者の青山のために木下は日帰り登山にちょうど良い、行きつけのとある山を選び、午前9時半に現地の駅で落ち合った。
「おはようございます、木下さん!秩父は空気がおいしいですね!」
「そうです。登山はいいでしょう?今日は一日がんばってくださいね」
「木下さん、僕は子供の頃から登山の経験はゼロなので、お手柔らかにお願いしますね・・・」
標高は1,000m未満の低山コースだが、登山経験がほとんどない青山は少々不安な顔をした。
「今日の山は登りやすいから大丈夫ですよ。景観もいいし、僕のお気に入りです。さっそく出発しましょう」
駅からほど近い登山口で軽い準備運動を終えた二人は、登りはじめた。
「青山さん、一歩一歩着実に、無理せず、怪我に注意しながら登ってくださいね」
「登り慣れていないので、すでにきつくなってきました。気が紛れるように、決算書の話をしてくれませんか?」
「登山しながら会計の話ができるというのは、私にとっては最高の贅沢です。では・・・『法人税等に関する会計基準』についてお話ししておきましょうか」
「法人税等に関する会計基準・・・?何か古典的なテーマですか?」
「いやいや、最新のトピックですよ。法人税関連の会計基準って、今まではなかったんですから。正式には『法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準』と言いますが、これが企業会計基準委員会から公表されたのは今年、平成29年の3月なんですよ」
「へえ、それは少し驚きますね。会計の現場では当たり前のように決算書に法人税を計上していましたよねぇ?なのに、その基準がなかった・・・ということですか」
「その通りです。そもそも会計基準は実務の慣習から発達し、一般に公正・妥当と認められたものを要約・明文化したものです。今回まとめられた会計基準も既に実務で行われていることが多分に含まれています」
「じゃあ、なぜ今になって会計基準ができたんですか?」
「平成27年12月に『繰延税金資産の回収可能性に対する適用指針』が公表されました。税効果会計に関する審議が活発に行われているようですが、その一環として、法人税等の会計基準についても公表しよう、という動きになったそうですよ」
そう話した木下が横を見ると、青山がいない。振り返ると、20mほど後方に青山が手を両膝に乗せて、息を切らせている。たしかに、会計の話を始めたタイミングで、少々きつい勾配に入っていた。登りはじめてまだ1時間弱だが、二人はしばし休憩することにした。
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「短い休憩でしたが、大丈夫でしたか?」と言う木下は、汗一つかかず、涼しい顔で登り続けている。
「木下さん、会計の話が始まってから歩くペースが上がるから、まいりましたよ。でも、少し休んで楽になったので、まだまだ頑張りますよ!」と答えた青山はすでにシャツが汗ばんでいる。休憩直後なのに、バックから伸びたハイドレーションのチューブを咥え、また水分補給をしている。
「では、『法人税等に関する会計基準』の説明を続けましょうか。まずは、法令に従って算定した額を損益に計上しましょう、ということです」
「それって、当たり前のことじゃないですか?会計の話まで初心者コースにしなくていいですよ!」
「違います。きちんと会計基準に明示してあることですよ。まずは基本をしっかりと。これは登山と同じです」
「では、法人税等は損益計算書の税引前当期純利益の次に表示しましょう、なんてことも基準に書いてあるんですか?」
「その通りです。慣れ親しんだ表記ですね。あと、事業税は損益計算書の販売費及び一般管理費として表示することが原則とされました。一部を売上原価として表示することも、合理的な配分方法に基づいていれば良いそうです」
「なるほど。事業税は法人税や住民税とは扱いが違うわけですか」
「法人税や住民税は損金算入されませんが、事業税は損金算入が認められていますので、このような違いを反映しているんだと思いますよ」
「ほかにはどんなことが記載されているんですか?」と会話を続ける青山は、また少々つらそうだ。
「まだまだありますよ。追徴と還付に関する記載もあります。更正等による追徴及び還付については、法人税等を表示した科目の次に、その内容を示す科目をもって表示する、という定めです」
「それぞれの金額も、追加で払った、または還付を受けた額で計上する、ということですね」
「惜しい!追徴される可能性が高い、または、還付が確実に見込まれる場合で、その額を合理的に見積もることができれば、その段階で損益に計上します」
「しまった、現金主義じゃないんですね」
「そうです。今日、無事に帰れたら会計基準を読み返してみてください。さぁ、頂上はすぐそこですよ!」
「いやぁ~。長く辛い登頂でした」
「そうですか?登りはじめて2時間ちょっとですよ・・・。それに、下りの方が怪我しやすいから油断大敵です」
無事登頂したふたりは、秩父市街が一望できる頂上で昼食をとり、無事に下山した。その夜、「これだけ頑張ったのだから」と夕食を食べ過ぎた青山の体重は、翌朝には登山前の体重を超えていた。

法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

会話にあった、税引前当期純利益の次に法人税等を計上するといった表示等は、従前より実務の現場で慣習化されていましたが、平成29年3月16日に「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」が示されました。以下、会計処理と開示に関する記述の抜粋です。
◆会計処理:当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等については、法令に従い算定した額(税務上の欠損金の繰戻しにより還付を請求する法人税額及び地方法人税額を含む)を損益に計上する。
◆開示:損益計算書の税引前当期純利益(又は損失)の次に、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目をもって表示する。事業税(付加価値割及び資本割)は、原則として損益計算書の販売費及び一般管理費として表示する。ただし、合理的な配分方法に基づきその一部を売上原価として表示することができる。
上記のほか、更正等による追徴及び還付についてなど詳細については会計基準本文を参照してください。

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