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  • 事業再生コンサルタントの話 ~ランチ・コンサルティング~

2017.08.01

[企業審査人シリーズvol.142]

その日の昼休み、先日再会を果たしたばかりの大学時代の友人・伊藤から、青山の携帯電話に電話がかかってきた。この日も木下と会社近くに食事に出ていた青山だが、幸いその日はゆったりした喫茶店だったので、木下に断って、青山は周囲の迷惑にならないような小さな声で電話に出た。
 「よう、青山。今、大丈夫か?」
 「ああ、食事中だけど、少しなら大丈夫だよ。どうした?」
 「いや、審査をやっている青山にちょっと相談があってな・・・できるだけ手短に話すけど」
 ここまで話したところで、木下と注文していたパスタが揃って届いたので、青山は木下に(お先にどうぞ)と仕草で合図をした。木下も(こちらにはお構いなく。お先にいただきます)という顔をした(どういう顔だ?)。
 「長く取引しているお客から、今までになくまとまった量の注文が入ったんだが」
 「それは良かったじゃないか。商売繁盛だな」
 「いや、それがちょっとおかしいんだな。そこは大きな会社じゃないから、いつも直接社長と話をしているんだが、もう社長もいい年で、この先どうするんですか、なんて話をしていたんだけど」
 「最近多い事業承継の話だな。団塊世代の多くの社長が退く2020年問題なんて言われてるけど」
 「そこの会社は息子さんが東京の大企業でそこそこの要職についていて、同族で後を継ぐことはなさそうなんだ。それに会社の業績も悪くてな、うちも少々用心しながら取引をしている感じなので、息子さんが会社を引き継ぐのも大変なんじゃないかと思っていたんだが」
 「なるほどね。息子が会社を建て直して・・・というケースもたくさんあるようだけど、その逆もあるからね」
 「ところが、最近になって、会社にコンサルタントと呼ばれる人が出入りするようになってね。社長曰く、業績改善と事業承継のアドバイスをもらうために来てもらっているんだということで、俺も紹介されたんだけど、見るからに高そうなイタリア製のスーツを着た、ちょっといけすかない感じのオヤジなんだよ」
「なるほど。これはちょっと変だね」と、青山はなんとなくシナリオが見えてきた。
目の前では木下が注文したボンゴレをスマートにたいらげ、優雅な手つきで雑誌をめくりながら紅茶を飲んでいる。マガジン・スタンドから木下が手に取ったのは、ゴシップ週刊誌やアダルト・コミック誌ではなく、建築デザイン雑誌である。木下さんはどこまでもエレガントだな、と頭の片隅で思いつつ、青山は電話の会話に戻った。
 「そうそう、ちょっと変だよな。しかも、プラスティック容器を作っている手堅い商売なんだが、最近は健康食品とか、よくわからない商品の段ボールが事務所に積んであったりしてな・・・」
 「そのあたりのことは社長に直接聞いてみたりしたのか?」
 「もちろん聞いたんだが、そのあたりはコンサルタント先生に任せてあるから・・・なんて言って、あまり話してくれないんだよ。そのコンサルの人にも先日それとなく聞いてみたんだけど、今のままでは商売がじり貧だから、いろいろ試している最中だ、なんて言ってね」
 「なるほど。直接はそれ以上探れそうにないと・・・」
 「そうそう。それでも何か臭うから、審査を仕事にしている青山ならどうするのかと思って、電話したわけよ」
 「最近は事業再生や企業再生のコンサルティングをやっている会社も多いから、一概に疑うわけにはいかないが、取引先にちゃんと説明をしないというところがひっかかるな。悪い方に考えると、乗っ取り屋が会社を乗っ取ろうとしている可能性も考えられなくはないね」
 「そんなこともあるのか。幸い今までそんな経験をしていないし、地方都市だとあまり聞かないが・・・」
 「ないわけじゃないよ。取り込み詐欺は知っているよな?休眠会社を買収してまともな会社に見せかけて詐欺を働くパターンが多いけど、活きている会社を乗っ取って、その信用で詐欺を働くこともあるんだ」
 青山自身もそんなケースに遭遇した経験はないが、上司の中谷や調査会社の横田の受け売りである。
 「青山、聞けば聞くほど、あの会社もやばいパターンだよ。どうすればいい」
 「ホントは付き合いのある調査会社に相談するのが、情報としては一番とれるけど、伊藤の会社はトリシンになってあまりそういう情報がとれないんだったよな」
 「そうだな。少なくとも営業部門では直接のパイプはないよ」
 「じゃあ、まずは商業登記をとってみたらどうだ。そのコンサルタントが役員に入っていないか、社長は商業登記上も社長のままか。そして、事業目的に今までになかったような事業が追加されていないかを確認してみるといい。商業登記では乗っ取りの決定的な証拠となる株主構成まではわからないが、役員と事業目的を確認すれば、実態がある程度裏付けられるはずだよ」
 「なるほど。商業登記は管理部門で見てくれるはずだから、まずはそうしてみるよ」
 「それでいよいよ怪しいとなったら、コンサルタントから名刺をもらっているなら、所属している会社や名前で調査会社に調べてもらうといい。リスクマネジメント部門に相談してみなよ」
 「わかった。やってみるよ。青山との再会が早速役に立ったな。ありがとう!」
 電話を切った青山は自分が役に立った高揚感を感じつつ、木下にお詫びがてら電話の内容を説明した。
 「青山さん、すごいじゃないですか。友人にコンサルティングをしたわけですね」
 「相談されて役に立つのはうれしいものですね。コンサル・フィーはもらえませんけど」
 「そうですね。フィーがもらえないだけじゃなくて、評価損も発生していますよ」
 青山が手元を見ると、漁師風スープ・スパゲティは麺がスープを吸い尽くし、「海鮮五目うどん」に見える。
 「いつものようにたらこスパゲティを注文していたら、水気が飛んで麺の塊になっていたでしょう。まだ運が良かったと言えますね。減価率は80%ではなく50%と見積もっておきましょう」
 冷静なコメントに聞きながら青山が口にした「うどん」は、真上から吹き付ける冷房で「冷製」になっていた。

事業再生コンサルタント

最近は国策もあり、公的な専門機関や金融機関が企業再生や事業再生に関わる機会が増え、事業再生コンサルタントという肩書きも一般的になっています。その多くは業務に真摯に取り組むプロですが、取り込み詐欺を働く会社の事例において、「乗っ取り屋」が「コンサルタント」なる肩書きを用いる例が散見されるのも事実です。怪しいと疑われる場合は、まずは青山がアドバイスしたとおり、商業登記から事実関係を確認するのが基本です。今まで通りの社長と思っていたら商業登記上は役員から外れていた、事業目的に従来の事業とは無関係な事業がいくつも追加されていた・・・となれば、もう赤信号です。何より、事業再生・企業再生において取引先の協力は不可欠であり、まっとうなコンサルタントは、その企業の状態や今後の方針をしっかり説明をしてくれるはずです。利害関係者にそうした説明をしないコンサルタントは、「悪徳であるか否か」以前に、不誠実とも言えます。関係者への誠実な情報開示は、やはり企業の信用の原点なのです。

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