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  • 値引・返品・割戻・割引 ~違いのわからない男~

2018.02.06

[企業審査人シリーズvol.154]

審査課の青山たちが働くウッドワーク社の本社は周辺に飲食店が少なく、昼休みに少しでも出遅れるものなら、どこも軒並み満員となってしまう。この日、午前中の電話対応が長引いて出遅れた青山が、外食を諦めて近くの弁当屋に行くと、同じく出遅れたらしい経理課の木下も弁当を買っていた。
それぞれ弁当を持って社内のリフレッシュルームに戻り、弁当を開いた。木下は複数の食材が摂れる幕の内弁当(650円)。青山は海苔弁(300円)と倹約質素かと思いきや、別のレジ袋からスタミナ系のカップ麺(200円)と“パワーと元気をチャージして、もうひと頑張り!”とのキャッチが表示されたゼリー飲料(200円)を取り出した。
「いつもながら、青山さんの昼食は、若手社員の昼食を象徴するような組み合わせですね」
「これでも総額は木下さんの幕の内弁当よりちょっと高い程度で、圧倒的なボリュームです!つまりコストパフォーマンスが高い、オススメの組み合わせです」
「私はもともと小食なので、まったく惹かれません・・・ところで、さっき値引きの話をしていませんでしたか?」
「そうでした。値引、返品、割戻、割引がこんがらがってきてしまって。一度勉強したのですが、復習させてもらっていいですか?」と言いながら、青山は海苔弁にとりかかった。
「これは、簿記検定では必須の論点ですよ。よく引っかけ問題として出題されます。まずこの中で一番わかりやすいのは返品ですが、これはさすがに大丈夫ですよね?」
「購入した商品や材料自体を仕入先に返して、仕入代金も戻してもらうということですよね?」
「そうです。品違いや欠陥などを理由として、製品等が返送されるケースが該当します。会計上は、仕入から差し引かれます。損益計算書における表示は、仕入から直接差し引く純額表示でも、仕入の下に仕入戻しといったマイナス科目を設けた総額表示でも、どちらでもかまいません。売り手の処理はこの逆です」
「値引は、商品のキズや品質劣化を理由に売価を下げる、というイメージで合っていますか?」
「そうです。返品まではしないけど、単価をちょっと下げる取引です。会計上の仕訳は返品と同じですよ」
「割戻というは、日常生活で使わない言葉ですよね」
「確かにそうですね。簡単に言ってしまうと、たくさん買うからちょっとまけて、といった意味合いです。一定量や一定金額を設けて、それを超えて売買されたときに代金の減額や返金がされるということです」
「同一商品を大量に取引する商売では多そうですね。これも、会計処理は値引・返品と同じですか?」
「その通りです。結果としては売買代金の一部免除または払戻しになります。リベートやキックバックと呼ばれることがありますよ」
「ここまではわかりやすいのですが、僕にとって厄介なのは“割引”です。値引と同じように聞こえます・・・」
「会計上の割引は、掛代金を定めた期限よりも早く決済したことによる金利相当分の免除という性質を意味しています」
「すいません。そこを少し丁寧にお願いします!」と、青山はゼリーを吸いながら注文を付けた。
「そういう商習慣に身を置いていない人には、わかりにくいですかね。例えば、私が青山さんから商品を100万円で買ったとして、このお金は1カ月後に払う約束としましょう」
「木下さんを信用していますが、100万円を1カ月も待たされるのは不安ですね」
「ところが、お金が用意できたから1週間後に払いますよと言ったとき、得した気分になりませんか?」
「払ってもらうお金は同じですけど、心配する時間が減るし、手元のお金に余裕ができますね」
「そう、その1週間と1カ月の差に、厳密には利息が発生しているという考え方です。似たような取引を挙げると、手形を銀行に持ち込んで、手数料を払ってでも割引して現金化するのと同じ感覚と言えますね。さて、この手形売却損や支払利息、また受取利息は損益計算書のどこに計上されるでしょうか?」
「それは簡単すぎます。営業外損益ですね!・・・そうか、割引だけは営業外に計上されるのか!」
「そう。簿記検定で引っかけ問題になると言いましたよね。値引、返品、割戻はどれも売上・仕入から控除するのに対して、割引だけは営業外損益に計上されるので、会計処理が異なるんです」
「なるほど。だいぶスッキリしました。僕は割引と言えば、閉店間際のスーパーで買うお弁当に貼られている3割引シールのイメージが強かったので、値引きと混同していたのかもしれません。違いがよくわかりました」
「割引シールが貼られたお弁当は、会計上は品質劣化による値引ということになりますね。レジの処理をよくよく見ていると、いったんバーコードで定価を読んで、3割引の処理をしているはずです。定価と値引額のそれぞれを認識しているわけです」
「そういえば木下さん、近所のスーパーで割引シールがどのタイミングで貼られるか、やっとわかってきたんですよ。その駆け引きがなかなか熱いんです。たいていは、おばちゃんの気迫に負けちゃいますけどね」
「気持ちは分かりますが、少々侘しい気持ちになりますので、今日はここらへんにしましょう」
最近実家を出て一人暮らしを始めたばかりの青山の庶民的話題を、木下は即座に返品したのだった。

知識度チェックの復習

 今回のテーマは、TDBカレッジの「知識度チェック」(第154問)で誤回答が多かったため、取り上げました。
【問題】営業外収益について説明した次の4つの文章のうち、不適切なものはどれでしょうか?
A:本業以外の金融収益や投資による利益は営業外収益に計上される
B:未実現の利益が営業外収益に計上されることはない
C:仕入の値引・返品・割戻は仕入高から控除するが、仕入割引は営業外収益に計上する
D:臨時的に発生した収益だが、金額が少額なものは営業外収益に計上されることがある

 クイズにチャレンジされた方の約4割が「C」を選択していましたが、正解は「B」で、正答率は約3割でした。「B」について補足すると、営業外損益の項目には有価証券やデリバティブの運用に伴う損益が計上されることがあります。これらは売却等によって実現していない、いわば未実現の損益ですが、市場の存在により容易に売却が可能であることから時価を反映します。なお、TDBカレッジメンバーの方であれば、問題回答後に表示されるページから、過去の知識度チェックをご覧いただけます。詳しい解説を確認したい方や、過去の問題にチャレンジしたい方は是非ご活用下さい。

値引、返品、割戻、割引の整理

「割引」に関する会計用語と処理
二人の会話をまとめると画像の図のようになります。会計用語と日常会話で意味が異なる「割引」に注意しましょう。

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