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  • 営業CFの「間接法」と「直接法」 ~石崎のCF~

2018.06.05

[企業審査人シリーズvol.162]

伝票処理で経理部に寄った営業部の石崎が、休憩コーナーで紅茶を淹れていた木下に声をかけた。前日、新人営業パーソン向けのレベルアップ研修で、青山が初めてキャッシュフロー(CF)の講義を行ったのだが、これを石崎も聴講していたのだった。本来、2年目の石崎は受講対象者ではないのだが、経理部の木下に何度か質問しているうちに会計に興味を持ち、後輩にあたる新人とともに青山の講座を聴講したのだ。
「そうだったんですか。あの講座は僕も青山君のアドバイザーみたいな形で関わりましたよ。どうでした?」
「初歩的なところから丁寧に説明されていて、青山さんの話し方もわかりやすかったので、新人には良かったと思います。ただ、僕が新人に聞かれて答えられないとかっこわるいので、ちょっと聞いていいですか?」
「さて、どんなことでしょう?」
「では、そもそもなぜ営業CFは税引前当期純利益からスタートするのでしょうか?」
「おっと、いい目の付け所ですね!これは『間接法』の話になるんですよ。CFには会計上『直接法』と『間接法』という2通りの作成方法がありますが、『間接法』の場合に税引前当期純利益からスタートするんです」
「『直説法』と『間接法』?そこから説明してもらっていいですか?」
「いいでしょう。ここは会計のテクニック的な話で、結構面白いですよ。まず『直接法』ですが、この方法では帳簿上のお金の流れをしっかり追います。例えば『売上債権の回収による収入』や『仕入債務の支払いによる支出』といった、営業CFにかかわる資金の流出入を直接加減算して表示するのです」
「なるほど、確かにそれは直接的ですね。でも、昨日の研修で見たのは『間接法』のものでした」
「それは、実際のCF計算書の多くが『間接法』で作成されているからでしょう。有価証券報告書に添付されるCF計算書のほとんどすべてが『間接法』で作成されています」
「『直接法』の方がわかりやすそうなのに、なぜ上場企業は『間接法』で作成するんでしょうか?」
「それは『間接法』の方が実務上、作成が容易と言われているからでしょうね。『間接法』は税引前当期純利益にキャッシュに関連する項目を加減算することで、誘導的に営業CFを導き出すことができます。さらに、この手法のメリットとして、損益計算書の利益とキャッシュの関連を把握しやすいということもあります」
「なんとなく分かってきました。税引前当期純利益からスタートしてキャッシュの出入りに関する調整を重ねていくことで、関連がわかりやすくなるわけですね」
 休憩コーナーで目を輝かせながら話を聞いている若手の営業部員の横を、経理部の若手アルバイトが珍しいものを見る目をしながら通り過ぎた。
「営業CFの調整項目はセミナーで理解できましたか?主要な調整項目はざっくり『非資金費用』、『損益項目の調整』、『資産・負債の増減』の3つのカテゴリーに分けられると、研修で青山さんが話していたでしょう?」
「はい。『非資金費用』は、損益計算書では費用として計上されるけど、キャッシュの流出を伴わないものでしたよね?減価償却費とか・・・」
「その通り。たとえば、多額の減価償却費を計上している会社では、損益面では少額の利益計上にとどまっていたとしても、実際のキャッシュアウトは少ないケースがあります。非資金費用は減価償却のほかに、減損損失や引当金の繰入なども該当します。また、非資金収益は少ないですが、引当金の戻入などがあります」
「次に『損益項目の調整』は、営業外の損益要素を除外する調整だと教わりました」
「そうです。営業CFの計算をするわけですが、損益計算書の税引前当期純利益には営業外の損益項目も含まれています。例えば固定資産の売却損益などは営業外ですが、税引前当期純利益から営業に係わるキャッシュの動きのみを抽出したいわけですから、こうした損益科目を営業CFから除かなければなりません」
「なるほど。さいごの『資産負債の増減』は・・・なぜ貸借対照表の要素が必要になるのでしょうか?」
「なかなかいい質問ですね。では売掛金で考えてみましょう。期首残高が10円、当期増加分が100円、期末残高が30円なら、損益計算書に計上される売上はいくらでしょうか?」
「・・・引っかけ問題のようですが、売掛金が増えた100円が売上じゃないですか?」
「その通り!では、実際に回収したキャッシュはいくらでしょうか?」
「期首の10円+当期増加の100円-期末の30円で、80円ですね」
「では、損益計算書に計上した売上高から、キャッシュの動きを抽出するにはどうすれば良いでしょうか?」
「わかりました!まさに逆算、期末の30円を引いて期首の10円を足せば良いのか!」
「売掛金が期首から期末で20円増えていますので、つまりこの資産の増加分をマイナスすればOKです。逆に売掛金が減っていたら、キャッシュはプラスになります」
「では仕入債務も考え方は同じですね?」
「そう、負債の増加はプラス、負債の減少はマイナスになります。実際にはこれらの他にも、利息や税金の加減算といった調整も加えて、営業CFを完成させます」
「ありがとうございます。営業CFについてだいぶ整理ができました!」
「『間接法』の税引前当期純利益から逆算している理由や項目がわかれば、営業CFの構造を理解したと言って良いでしょう。ちなみに石崎さん、今月は残る営業日から逆算して、仕事の積み残しはありませんか?」
「おかげさまで今月の売上目標は達成したのですが、回収が遅れているお客さんがいまして・・・」
「それはいけませんね。売掛金が増えて営業CFがマイナスになりますよ」
「そうですよね、では営業CFのマイナス回避のために、これからもう一度出掛けて来ます!」
そう言って戻っていく石崎のこころなしか大きくなった背中を、木下は頼もしい思いで見送ったのだった。

営業CFの作成方法

営業CFの作成方法の違いによる表示イメージ例
木下が説明したとおり、営業CFの作成方法は資金の流出入を直接加減算して作成する「直接法」と、税引前当期純利益にキャッシュに関連する項目を加減算することで誘導的に作成する「間接法」があります。具体的なイメージは画像の例をご参照ください。なお、いずれの方法でも営業CFの合計は一致し、以下に続く投資CF・財務CFにおいても違いはありません。

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