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  • 「有事の円買い」で進む円高の行方は? ~景気のミカタ~

2019.08.19

すっかり定着した「有事の円買い」

以前は「有事」となれば、ドル買いが進みましたが、昨今はどうなっているのでしょうか。今回は「有事の円買い」について取り上げます。
図表1 2019年の円/ドル為替レート(日次)
ここ数年、為替レートは1ドル=110円前後で比較的安定して推移してきました。しかし、2019年8月の為替レートは、米中貿易摩擦の高まりなどを受けて、安全資産としての円が買われるなど1ドル=105円台へと上昇しています(図表1)。
かつては「有事」となればドル買いがセオリーでしたが、いまや「有事の円買い」がすっかり定番化したかのようです。
図表2 円/ドル為替レートの推移(月次)
例えば、世界的ショックが起こった時に円買いが進んだケースとして、[1]リーマン・ショック(2008年9月)、[2]欧州債務危機(2010年)、[3]東日本大震災(2011年3月)、[4]英国の国民投票によるEU(欧州連合)からの離脱決定(2016年6月)などがあります。また、[5]米国によるシリア空爆(2017年4月)においても、円相場は1ドル110円台から108円台まで上昇、円高が進みました(図表2)。

ショック発生時の円高要因

図表3 中央銀行のバランスシート規模の対名目GDP比
なぜ「有事」に円が買われるのでしょうか。
もともと外国為替レートは、中長期的には実質金利差や貨幣量比率など国際マクロ経済理論(国際金融論)を用いることである程度予測できる場合もあります。しかし、短期的な動きでは、ほとんどランダム・ウォーク(金融商品の値動きには規則性がなく、過去の変動とは一切関係ないとする仮説)になっており、予測することは不可能に近いと言えるでしょう。

あえて、上記のショック時における円高を説明するならば、[1]と[2]は理論通りの動きだったと考えられます。リーマン・ショックが起こった時、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)などでは、貨幣供給を急激に増加させた一方、日本はゆっくりとした増加にとどまったことで(図表3)、円は他国通貨と比較して相対的に希少性が高まり、急速に円高が進むこととなりました。つまり、国際マクロ経済学におけるマネタリーアプローチで説明可能でした。

国内外の予想金利差が招いた円高

[3]についても、国際マクロ経済学の理論で説明できます。通常、大規模な自然災害後は大規模な復興予算が投入されます。その結果、同時に大規模な金融緩和政策が実施されなければ、日本の金利が大きく上昇すると予想されます。そのため、国内外の金利差において海外の予想金利より日本の予想金利が高くなると見込まれる結果、金利平価説に従って円高が進行することになります。

いわゆる、マンデル・フレミング効果と呼ばれるもので、この現象は、1995年の阪神・淡路大震災でも確認されていました。

「安全資産」としての円買い

図表4 主要国の対外純資産残高
他方、[4]と[5]は少し様相が異なり、日本円の強み、つまり世界で最も多い対外純資産を背景とした「安全資産」という評価がもたらした結果だったのではないでしょうか(図表4)。経常収支はフロー面でみた為替レート決定理論のひとつ“国際収支説”ですが、長年にわたる経常収支黒字を蓄積したストック面により、円高をもたらしたと推測できるでしょう。

ここのところ緊迫度を増している米中貿易摩擦においても、為替レートは同様の動きを示す可能性があります。しかし、米中貿易摩擦が直接「日本の有事」になれば、「有事の円買い」はあっという間に消えてしまうかもしれません。

執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士
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