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  • 年が明けて振り返る、消費税増税から3カ月

2020.01.09

[企業審査人シリーズvol.201]


審査課の青山にとって、年末年始の休みの過ごし方はここ数年、ほとんど変わらない。大晦日に実家に帰り、大掃除の手伝いをして年越しそばを食べ、地元の友人と誘い合って初詣に行き、そのまま新年会に出て、その後は福袋を買いに行く。海外旅行に行くような派手さはないが、それなりに充実した休暇である。
そして、あっという間に仕事始めの日を迎えた。今年のウッドワーク社の仕事始めは6日の月曜日。青山は気持ちを新たにするためにスケジュール帳を新調し、この日に臨んだ。朝のうちは新年の挨拶などをして、「今日はリハビリだ」などと言っているが、午前中が終わるとすっかり「いつもの出勤日」になるのが不思議だ。
午前中の仕事を終え昼休みになると、経理課の木下が青山に話しかけてきた。
「あけましておめでとうございます・・・は、もう朝に済ませましたね。お疲れ様です青山さん。今年も遠出はせずに、ゆっくりされたんですね?」
「そうですね。ゆっくりしたかはともかく、近場で過ごしました。木下さんはまた旅行に行ったんですか?」
「はい。今回は雪深い秋田の温泉に行ってきました。かつてはマタギの人たちが多く生活していた土地で、熊もよく出るらしいです」
「マタギですか。冬眠の時期とは言え、ちょっと恐いですね。でも雪見の温泉はうらやましいです」
「この話題は次の飲み会のときまでとっておきましょう。ところで青山さんは実家に帰って、近況報告もされたんですよね?」
「するにはしましたが、去年は改元もありましたし、いろいろニュースが多かったので、僕の近況報告より世間的な話が多かったですね。母がとくに熱心に話していたのは消費税の増税ですよ。一人暮らしの僕にもそれなりに影響があったので、久しぶりに話が盛り上がりました・・・」
「確かに、軽減税率の話はうちでも出ましたよ。実家の両親は外食が減った、と話していました」
「出前やテイクアウトは8%、コンビニのイートインコーナーは10%・・・増税直後よく話題になりましたね。今はさほど気にしなくなってきましたけど、親には自炊して節約するように!と、釘をさされましたよ」
「親はだいたいそういうものですね。結局、ムダ遣いせずにお金を貯めなさい、という結論に行き着きます」
「わかっていますけど、耳が痛いですよ。いろいろ買いたいものもあるし・・・」
「消費税といえば、以前に税込決算書と税抜決算書の違いについて話しましたよね。覚えていますか?」
「はい。仕訳を書いて教えてくれましたよね。税込だと売上や諸経費が消費税分多くなって、でも租税公課で消費税が計上されるから利益は税抜きの場合と同じになる、というようなお話でしたね」
木下の決算書トークの今年最初のパスを、青山はきれいに返した。このトークは今年も続きそうである。
「そうです。税抜のパターンでは、期中に仮受消費税と仮払消費税で各々消費税を分けて把握し、積み上げ計算します。一般的には税抜決算書の方が圧倒的に多いですけどね」
「そこに軽減税率が導入されたので、とくに小売業は処理が大変そうですね」
「そうです。8%と10%に対応できるレジの導入がまず必要になりますが、加えてキャッシュレス決済時のポイント還元制度に備える企業も多かったので、大変だったでしょう」
「消費税は個人の消費者が負担する税金ですし、預り金みたいなものなので、審査のシーンで決算書を見ていても、あまり目が行かないんですよね」
「それが、意外と無視できないですよ。例えば、ファスト・ファッションの店や一部の飲食店では、消費増税後の価格表示を従来の税込価格のまま継続して、増税分を価格転嫁せずに自社で吸収する決断をしていました。この場合、実質的には本体価格の値引きと言えるでしょうから、業績に与える影響が気になります」
「なるほど、確かに中小企業では似たようなケースが多いかもしれませんね」
「業績への影響といえば、増税後の買い控えの影響も見極めが必要ですね。増税直後は比較的影響が小さかったと見る向きもありましたが、業態によって影響の度合いや期間が違うでしょう。税の影響は小さくても”とどめ”になるような企業が出てくるかもしれませんね。要注意ですね」
「増税前も比較的大きな衣料品関連企業の倒産も話題になりましたし、そういうこともありそうですね」
「消費税だけでなく、人件費や運送コストなども上昇傾向にありますから、”価格転嫁ができているか“ということが企業審査でも大きなポイントになるのではないでしょうか」
「売上は増えたけど原価や費用がそれ以上に増加して減益となった、という会社をよく見かけますよ」
「消費税増税のタイミングでの値上げは、いわゆる便乗値上げに当たるのではないかと心配する経営者も多かったようです。内閣府の総合相談センターに質問が多く寄せられたと聞きました」
「総合相談センター?そんな窓口があるんですね」
「略称です。正式には『消費税価格転嫁等総合相談センター』です。応答事例がネットで公開されていますよ。ちなみに便乗値上げの件については原材料価格の上昇など合理的な理由に基づいて値上げを行うケースは便乗値上げではない、という回答でした」
「でも、値上げをするとお客さんが離れてしまうかもしれないし、経営者にとっては難しい判断ですよね」
「今年の3月の決算では、あくまで消費税増税から半年の結果になりますから、留意点が多いですね」
「今年はオリンピックイヤーで、経済的にもまた影響がありそうですし、木下さんに相談することも多そうです」
「今日は税金や原材料価格、人件費など、いろんなものが増えているという話でしたが、青山さんは休暇の間に体型が少し引き締まったように見えますよ」
「さすが、木下さんは違いがわかる男、ですね!新年を迎えて一念発起、ダイエットを始めたんですよ」
「青山さんのダイエット宣言を聞くのは私が入社してからもう何回目だかわかりませんが、今年こそ持続可能な成長、いや、持続可能なダイエットを模索してください」
「それ、いいですね!今年の僕はSDGs、サステナブル・ダイエット・ゴールズで頑張ります!」
 木下は静かにほほえみ、青山のSDGsが成功し、青山が一層成長することを願うのであった。

消費税増税とコスト増

消費税増税や軽減税率の適用は、日常生活で意識することが多い一方、与信管理のシーンで論点に挙がることは少ないかもしれません。ただ、二人の会話にあったように消費税対応による投資負担が発生しているほか、他のコスト増加要因とも重なっており、とくに中小零細企業における資金繰りに与える影響は小さくありません。過去に支払遅延を起こしているなど注意先については、決算まで待たずに極力直近の状況を把握しておきたいところです。
さて、青山や木下が登場するコラム「企業審査人シリーズ」は2013年10月からスタートし、お陰様で連載200回を超え、今年で7年目を迎えます。これからしばらくは、与信管理のシーンで求められる基礎的な重要ポイントを改めて取り上げていこうと思いますので、引き続きシリーズをご愛読頂けると幸いです。

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