「不況抵抗力」強める日本企業、平成以降で最高となった”稼ぐ力”背景に
2020.01.24
稼いだキャッシュは「安全性」の強化に 次世代技術などへの成長投資に停滞懸念
日本企業の安全性が高まっている。帝国データバンクの調べでは、2019年3月期決算の全国・全業種における、企業の財務安全性を示す自己資本比率は27.79%。18年に比べて1.21ポイント改善し、8年連続で改善した。「優良企業」とされる40%台には及ばないが、経営リスクが高まったリーマン・ショック(08年)以降の推移と比べ、財務の安全性は大幅に改善された。
要因の一つとして挙げられるのは、リーマン・ショック後に急増した債務を圧縮する動きが続いたことだ。借入金の依存度を示す外部負債依存率は、過去30年間で最も高かった11年(46.30%)をピークに低下傾向で推移。19年は37.72%となり、8年連続で低下した。この割合は、30年前の平成元年(1989年)以降で最も低い水準だ。
収益力の改善、「不況への抵抗力」強める原動力に
収益力の改善により、リーマン・ショックなど急激な経済活動の減速などに対する耐性も厚みを増した。2019年の売上高減少時の耐久力を示す経営安全余裕率は7.87%だった。マイナスに転じた10年(△1.97%)に比べて大幅に改善し、統計開始以降で最高。不況に対する抵抗力が、概ね日本企業全体で強化されたと言える。
特に企業の安全性を示す自己資本比率は、近年急速に改善が進んでいるものの、リーマン・ショック前の08年(11.91%)には未だ届かない。資本欠損が懸念される1ケタ台は脱出したものの、企業体力の改善・強化が中小企業に求められる点では依然として変わりない。
「安全性」優先で成長投資の停滞懸念、 増え続ける従業員コストも悪材料
他方、企業における設備投資の償却負担度合いを示す売上高減価償却費率は、19年で1.81%だった。省人化需要などを背景に設備投資が進んだことも、設備の償却費率が高まる一因となった。しかし、その負担割合は近年の収益力の回復ペースに比べて頭打ち状態が続き、「平成不況」と言われた1990年代並みの水準にとどまっている。
自己資本強化により増した企業の安全性。ただ、稼いだキャッシュが事業拡大や次世代技術などの成長分野、効率化の設備投資に向かわなくなることで、結果的に企業の成長力を抑えてしまう可能性がある。
帝国データバンクの調べでは、企業の50.1%で正社員が、29.3%で非正社員がそれぞれ不足と回答(注1)。企業の約4割が解消策として「賃金水準の引き上げ」を重視しており(注2)、従業員一人にかけるコスト負担は今後も増加する事が予想される。
減速懸念強まる2020年の景況感、 好調さが一転して収益力低下の可能性も
各企業における2019年の景況感は、「悪化」局面だったと考える企業は31.2%、7年ぶりに3割を超えた(注3)。企業からは、消費増税などによる内需の低迷、海外では米中貿易摩擦による悪影響などで、国内景況感の変調を感じた声が聞かれた。
こうした点を踏まえ、20年3月期の企業財務をめぐる動向では、景況感の減速に備えた自己資本強化など、安全性強化の動きに大幅な変動はないとみられる。ただ、国内外での経営環境変化に伴い、企業の「稼ぐ力」である売上高経常利益率などは改善ペースの鈍化、または悪化も予想される。
(注2)「人手不足の解消に向けた企業の意識調査」(2019年9月、帝国データバンク)
(注3)「2020年の景気見通しに対する企業の意識調査」(2019年12月、帝国データバンク)
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