不況期に強まる「運やコネ」重視の経済的帰結 ~景気のミカタ~
2020.05.20
今回の景気のミカタは、不況期に強まる「勤勉さ」よりも「運やコネ」を重視する価値観の高まりが日本経済に与える影響について、焦点をあてています。
2020年度の日本経済は大幅減少が避けられず
TDBマクロ経済予測モデルによると、2020年4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比年率20.2%減少し、2020年度通期でも前年度比5.1%減少すると予測されており、日本経済は非常に厳しい状況が続いていくとみられます。
“運”では済ませられない、日本社会にはらむ大きなリスク
データをみる限り、日本における勤勉の重要性に対する価値観は、国際的には低いものとなっています。World Values Surveyが実施している世界価値観調査には、「人生での成功を決めるのは、勤勉が重要か、それとも運やコネが重要か」という質問があります。2010年の日本の結果をみると、「人生での成功を決めるのは運やコネが大事」と考えている人は32.6%となっており、中国(21.9%)やアメリカ(23.2%)より10ポイント前後も高くなっています(図表1)。
不況が価値観に影響を与える
上記の調査を年齢層別にみると、若年層ほど勤勉よりも運やコネが人生の成功で重要だと考える人の割合が高くなっています(図表3)。また、これは女性よりも男性の若者でその傾向がより強く表れます。日本はバブル崩壊以降、若年層の就職が困難な時期が続き、さらに2000年代に入ると、いわゆる「超就職氷河期」に直面するなかで、若年層を中心として勤勉に対する価値観が大きく揺らいだ可能性があるでしょう。
“勤勉より運やコネ”の広まりでチャレンジが阻害される社会になる
先行研究※3によると、“運”による所得の差を埋めるのは、民間の保険や家族の助け合い、そして税や社会保障による再分配制度です。しかし、「勤勉より運やコネ」という価値観が広まると、こうした再分配制度が有効に機能しなくなることが懸念されます。
一般に、コネを排除するためには、参入障壁をなくして競争を厳しくすることが最も優れた解決方法になると言われています。また、運の要素を小さくするためには、再参入が何度でもできる、失敗してもチャレンジできる競争的な制度を作ることが大切になってきます。
しかし、「運やコネで人生が決まる」という価値観が広がると、こうした解決策を取ることが難しくなります。規制を強化する政策がとられると、規制で守られた人のなかでの格差は小さくなり、そのなかでの“運”の要素は小さくなります。一方で、規制の外部にいる人たちとの格差は拡大し、規制の内側に入れるかどうかという“運”の要素がより大きくなってしまいます。
その結果、既得権者がより強く守られ、新たなチャレンジが阻害される社会へとつながってしまいます。したがって、不況期には「勤勉より運やコネ」といった価値観の変化が起こりやすいため、より柔軟な社会を築くためにも経済をいかに早く立て直すかが重要となってくるでしょう。
※2 Giuliano, Paola and Antonio Spilimbergo, “Growing Up in a Recession: Beliefs and the Macroeconomy,” IZA, Discussion Paper, No.4365, 2009
※3 大竹文雄、『競争と公平感』、中央公論新社、2010年
執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士
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