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  • 新型コロナと「審査繁忙期」の非常時対応

2020.06.04

[企業審査人シリーズvol.216]

審査課の青山は、その日は出社当番だった。審査課では社員4人が交代で出社する体制が続いている。緊急事態宣言が解除されたら出社制限を少し緩和し、それぞれが週2日出社するシフトに組み直すことになっているが、それでも在宅勤務がメインになる。建材商社のウッドワーク社は業種柄、得意先の大半が工務店で、3月決算の会社が多い。例年6月から7月にかけて審査の繁忙期になるが、審査が回るのだろうか?・・・商談の動きが少ない今は余裕のある青山だが、最近は先々を考えて少々不安になってきた。
そんなことを思いながら、審査課でひとり出社して仕事の準備をしていると、課長の中谷が現れた。しかし、「おはよう!」と言うなり、机に鞄を置き、手帳を持ってどこかに行ってしまった。「今日は何ですか?」と聞きたかった青山に、その隙も与えない素早い動きだった。
(今日は出社日じゃないはずだけど、何かトラブルでもあったのかな・・・)と、少々いやな予感を抱えたまま、青山はその日の案件にとりかかった。
その中谷が自席に戻ってきたのは、それから小一時間後だった。トラブル対応の時は眉間にしわを寄せて戻ってくるが、今日はすっきりした顔をしている。何かとわかりやすいのが、部下としては助かる。
「出社日じゃないのに、朝からバタバタ大変ですね!今日は何だったんですか?」
「そうそう、ホントは出社日に合わせたかったのだけど、営業統括部長と管理部長が出社するのが今日だったから、話をするにはこのタイミングだったのよ」
ウイルス感染防止策として、社内では会議が原則中止となっている。定例の役員会や部長会は延期したり、リモート会議をしたりしているが、管理部長は定年前の年齢もあって、あまりPC操作が得意ではない。
「青山も知ってるように、うちの管理部長はあまりパソコンに明るくないでしょ?ホントは打ち合わせもダメなんだけど、広い会議室で、すごーく離れて打ち合わせをしたのよ」
「大変ですね。ソーシャル・ディスタンスは守らなきゃいけませんけど、同じ人数でやろうとしたら面積を倍以上にしないといけませんから、これから大人数の会議はムリですね。それはそうと、一体何だったんですか?」
「ちょっと、戻ってきたばっかりなんだから、少し休ませてよ!」
そう言って、中谷はリフレッシュコーナーの方に行ってしまった。給湯室で自分のマグカップを取り出して、粉末のインスタントコーヒーを入れて・・・それが中谷の出社時のルーティンワークだったことを青山は思い出した。在宅勤務が長くなってくると、そんなことも少し懐かしい。青山は中谷が帰ってくるのをおとなしく待つことにした。
 それからさらに15分ほど経って、青山が次の審査案件に乗りかかったところで、中谷が席に戻ってきた。
「さて、今日の話が何だったか、知りたいでしょ!」
青山としてはあまり良くないタイミングだが、いつものようにお構いなし、である。
「今年の6月以降の定期審査について、3カ月延長してもらうことが決まったのよ」
「え!そうなんですね!最近例年の審査繁忙期をどうするのか気になっていたんです。しかし、それは今まで聞いたことがない思い切った判断ですね!」
「新型コロナ自体が今まで聞いたことのない事態だから、別におかしいことじゃないわよ」
「それはそうですが、営業部も管理部長もあっさり納得してくれたんですか?」
「営業部は営業にブレーキがかかる話じゃないから、反対する理由はないのよ。それに定期審査といっても、与信限度の期限を1年に設定して、半年または1年スパンで与信限度を更新する、というのは純粋な社内の取り決めだから、こういう非常時には見直しても問題は少ないの。まあ、システムは少し手直しが必要だけどね」
「延期を決めたのは、やはり出社制限下で処理が難しいからですか?」
「それもあるわね。もちろん審査課の都合だけじゃないわよ。営業部も稼働が制限されているし、現場のヒアリングとか資料収集にも時間がかかりそうでしょ。最初はすぐに平時に戻ると思ってたけど、緊急事態宣言が解除されてもすぐに出社制限が解除されるわけじゃないことがわかってきたしね」
「それもって、ほかにも理由があるんですか?」
「ほかにもいろいろあるわよ。私も調査会社の横田さんと話をしたんだけど、調査会社も活動が制限されていて、調査報告も遅れそうだから、いつものように資料が揃わない可能性があるわよね。そもそも、取引先もコロナの影響が大きくて心配な先に限って、決算が延期される可能性も高いわよね。だいたい、コロナの影響が反映されていない前期の決算で審査をしても仕方がないって部分があるし。事態がいろいろ動いている最中に調査やらヒアリングやらしてみても、先が見えない上に、相手にも迷惑をかける可能性だってあるわ」
「なるほど、考えれば考えるほど、例年通りにやることにあまり意味がないように思えてきました」
「うちは工務店のお客さんが多いから、直接的な影響は少ないけど、そのまた先にある工務店のお客さんは、たぶんいろいろ影響が出てくるわ。そのあたりも、少し落ち着いてからじゃないと見えてこないのよ」
「そうですね。住宅もその後の景気の冷え込み具合が影響するでしょうし、業者向けも設備投資がどれくらい冷え込むか、すぐに立ち直るのか、少し時間を空けてみないと、われわれも判断できないですね。でも、延期している間に取引先が倒産しないか、そっちも心配じゃないですか?」
「青山、そこなのよ。ただ延期したんじゃダメだから、この期間に元々社内格付けが低かった先とか、取引が大きい先については、個別に情報収集をしなきゃいけないわね。いつも営業部員に協力してもらっている取引先ヒアリングシートに、この時期ならではのチェックポイントを加えたものを配らなきゃいけないわね」
「そうですね。さすが中谷課長、そこまで考えて用意されているんですね!」
「いや、考えてはいるけど、まだ用意はしていないわ。青山、あさってまでにヒアリングシートのたたき台を用意できる?私に送ってくれれば、承認して確定するわ」
「あ・・・はい。用意するのは私ですよね。はい、わかりました!」
与信管理は非常時対応が決まったが、青山への無茶振りはいつもと何ら変わらなかったのだった。

新型コロナウイルス感染拡大と定期審査

緊急事態宣言が段階的に解除され、新型コロナウイルス対応は出口に向かい始めましたが、宣言が解除されても第二波を防止するために、経済活動の制限が続く見通しです。そうした中、企業の与信管理は本来定期的な性質を持っていますが、この渦中の与信判断は過去の決算が平時ほど参考にならないケースが増えるほか、取引先との直接的な接触や資料徴求も制限せざるを得ません。調査会社も同様の理由から活動の縮小を余儀なくされており、「例年通り」の処理に多くの無理が生じる可能性があります。この先1年の与信を今判断する必要があるのかを吟味し、今は重要顧客や信用不安先のモニタリングに注力する、そうした「非常時対応」が与信管理の現場にも必要とされているかもしれません。自社の業種・業態や新型コロナの影響度によって、ベストの選択をしていくことが重要と言えるでしょう。

新型コロナウイルス関連支援情報

新型コロナウイルス感染症に関連する融資や補助金、協力金などの支援制度に関する情報を都道府県別にまとめました。
https://www.tdb.co.jp/corp/corp09_covidrelatedinfo.html

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