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  • 新型コロナと企業審査 ~リモート審査会議~

2020.06.17

[企業審査人シリーズvol.218]

その日の11時、ウッドワーク社の審査課がパソコンの中に集合した。緊急事態宣言の間、審査課員は輪番出社していたが、宣言解除後も各人が週2日の頻度で出社する体制となり、全員が会社で揃うことはしばらくなさそうな見通しとなった。課長の中谷はかねてよりリモートでの課会開催を検討していたが、パソコンのセキュリティを管理するシステム部門の了解がとれず、解禁を待っていた。営業部では八木田の課がリモート勉強会を開催するなど、各職場で非公式な動きが始まっていたが、同じ管理部門で勝手なことはできない。もとより審査課は5人の少人数世帯、SNSのグループチャットでもある程度コミュニケーションがとれるので、大きな支障はなかった。しかしこの状況が長期化すると、いろんなツールを試しておきたい。中谷は解禁を待った。
そうしてこの日、ようやく初のリモート課会が実現した。日程はベテランの水田が出社する日に合わせられた。パソコン操作に弱い水田は時間通り画面の中に登場したが、横に有能アシスタントの千葉の顔が見える。水田の操作が覚束ないので、課長の中谷の指示でリモート会議の時間だけ出社したのだ。
「さあ、全員揃ったから、始めましょう。リモートとはいえ、こうして全員の顔を見られるのはうれしいわね」
そう言った中谷は在宅で白いTシャツ姿だが、同じく在宅の青山は迷った末、出勤時と同じ服装で臨んだ。
「青山、会社にいるときと同じ格好をしてるけど、どうせ下は短パンなんでしょ」
「ちゃんとスラックスを履いてますよ!会議だというからちゃんと着替えたんですけど、損しましたよ」
中谷のツッコミに青山が立ち上がってスラックス姿を披露したので、画面の中から笑いが起きた。
冒頭、課長の中谷から今年の繁忙期の審査を最大3カ月延期する旨の発表があった。青山はすでに聞いていた話である。緊急事態宣言は解除されたが、各企業の決算発表の遅れはもちろん、各種資料の入手も例年のようにはスムーズにいかないと予想される。何より経済環境が大きく変化する渦中にあり、この時期にこの先一年の与信判断をするのはリスクが大きい。中谷は青山に説明した内容を全員に説明した。定期審査を延期することはベテランの水田も経験がなかったようで、少し驚いていたが、理由を聞いて納得したようだ。
「定期審査を延期することによるリスクについては、マークすべき顧客を明確にした上で、情報収集を強化することで対応したいと思います。営業担当者に対してはコロナの影響に関するヒアリング項目を加えたシートを青山が作ってくれたので、これを運用していきます」
青山が作ったワードファイルが画面に出てきた。中谷の無茶振りに対応して作成したものである。
「業績への影響の有無、影響がある場合は直近の月商推移、今後の影響見通し、コロナ関連補助金・融資の利用有無・・・なるほど。まあこれらを月に1回くらいヒアリングしてくれれば、大丈夫そうじゃの」
水田がうなずくと、在宅勤務の秋庭が補足するようにコメントした。
「営業担当以外にも、僕が公開情報をチェックしたり、側面から情報を集めたりする予定です」
「気になる先については調査会社の横田さんにも定期的に情報がないか照会していきます」
青山も中谷と事前に相談した内容を報告したが、さきほどから画面に映る秋庭の姿が気になっていた。
「秋庭君、さっきから顔が目から上しか映っておらんが、今日は髭を剃ってないのか?」
水田も同じことが気になっていたようで、青山より先にツッコミを入れた。
「ちゃんと剃ってますよ!ああ、カメラの角度が良くなかったですね。直します!ところで、そのマークすべき顧客について、中谷課長から検討するようにと指示があったので、在宅の時間に作ってみました」
画面にExcelの表が現れた。メーカー、工務店、二次卸、その他、とそれぞれの数が示され、その右にはそれらの内訳らしきカテゴリと数字が並んでいる。横軸には北海道から順に地域別の区分が並んでいる。
「これは当社の顧客属性を分類して、その分布を示したものです。当社の顧客はご存知のように地方は代理店、首都圏は工務店が多く、メーカーは地方に点在しています」
もともとメーカーとして出発し、製造部門を外部化してきたウッドワーク社はその成り立ちから、取引の長い工務店との直接取引が多い。秋庭が作った資料はこうした特徴を裏付けつつ、取引企業数、年間取引高、現時点の売掛残高と、複数のシートで立体的に顧客分布を示していた。特筆すべきは、顧客の属性をさらにその顧客基盤で分解していることだ。同じ工務店でも、住宅や商業施設、官公庁需要など、その顧客基盤によってコロナの影響が変わる。「下請」というカテゴリがないのは、下請先の顧客基盤まで探って分類しているからだろう。秋庭の労作はさらに、各カテゴリの企業評点・社内格付の分布状況まで示していた。これを見ると、地方の代理店は規模が大きく、コロナの影響も限定的でマークから外れる。部材を販売しているメーカーは取引額が大きく、コロナの影響を個別に受けた先もあるので、個別のマーク。そして首都圏の工務店は主に商業施設関係をメインとし、もともと評点が高くない、取引額がそこそこある先のマークが必要とわかってきた。
「これらの企業は線の引き方によりますが、30社程度を重点マーク先にできればと思います」
そう報告を締めくくった秋庭を中心に、いくつかの質問・意見のやりとりがなされ、マーク先の情報収集の分担を確認して、その日の打ち合わせが終わった。最後に水田がぼそっと話を始めた。
「マークする先については、当社のリスクとして対応するのはもちろんじゃが、彼らも好き好んで苦境に置かれているわけではないのから、支援的な動きがとれないかを最初に考えながら対応せんとな。危ない会社へのマーキングの前に、助けなきゃいけない会社のマーキングでもあるんじゃから。今日、エレベータで社長に久しぶりに会ったから、そんな話をしたら、ぜひそうしてくれ、と彼も言っておったわい。最近、鉄道系の商業施設の運営会社が、テナントの休業中はテナントから家賃をとらないという話も聞いた。体力のある会社は体力のない会社を助ける、それが商売の絆を強くするし、時代に求められていることじゃ」
「えっ?彼って・・・水田さん、社長とエレベータの中で会話ができる間柄なんですか?」
「青山、知らないの?水田さんは社長と同期入社で、飲み友達なのよ!」
「えー、私も知らなかったー!」
水田がまんざらでもない顔をしたところで、水田と千葉の画面がブラックアウトした。
「あらら、通信が切れちゃったわね。じゃあ、今日はこれでおしまい!」
中谷が閉会を宣言し、審査課初のリモート課会はやや唐突に幕を下ろしたのだった。

新型コロナと企業審査

緊急事態宣言が解除されても、多くの企業が在宅勤務を継続しています。業種・業態によりますが、第二波を抑止するためには必要なことでしょう。企業の審査部門にも間接部門として、さまざまな工夫が求められています。今回は中谷が率いる審査課のリモート課会という新しい試みをご紹介しました。企業審査も内部的には在宅・出社の業務整理を行いつつ、外部的には新型コロナという未曾有の環境変化に対応した、最適な制度運用を模索していきたいものです。今こそ、「変えるなら今!」というタイミングなのかもしれません。

新型コロナウイルス関連支援情報

新型コロナウイルス感染症に関連する融資や補助金、協力金などの支援制度に関する情報を都道府県別にまとめました。
https://www.tdb.co.jp/corp/corp09_covidrelatedinfo.html

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