戦争の産物としてのGDP ~景気のミカタ~
2020.07.16
今回の景気のミカタは、一国の経済規模を表すGDPがどのように生まれたのか、戦争と歴史的背景について、焦点をあてています。
世界経済の回復遅れ、2020年は歴史的な低成長に
具体的には、先進国ではアメリカ-8.0%、ユーロ圏-10.2%、日本-5.8%、イギリス-10.2%、カナダ-8.4%などです。また、中国は+1.0%とプラスを維持するものの、前年の+6.1%が大幅に低下すると予測されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、2020年前半の経済活動に予想以上のマイナス影響を及ぼし、世界経済の回復は従来の予想よりも緩やかになると見込まれています。
戦争が生み出したGDPという国際的尺度
戦争はさまざまな発明を生み出します。インターネットやレーダー、コンピュータも軍の資金で開発されたものです。そして、GDPも第二次世界大戦が生んだ発明品のひとつでしょう。
GDPは国の暮らし向きを測定・比較するための指標といえますが、統計の中では歴史は比較的浅く1940年代に生まれたばかりです。それ以前は景気を測定するのに株価指数や貨物輸送量など別の指標が使われていました。
現在、我々が目にするようなGDPができたのは、1930年代の大恐慌とそれに続く第二次世界大戦がきっかけとなっています。イギリスとアメリカでほぼ同時期に開発が進められていましたが、その目的は大恐慌から脱する手掛かりとなる情報を政府が求めていたことによります。最初にアメリカで出されたレポートは、国民所得が1929年から1932年の間に半減していることを明らかにしました。当時の政府が国民に危機感を伝えきれていなかったなかで、国内生産が数年で半減しているデータを見せられれば、対策が必要なことは誰の目にもはっきりとわかるようになります。
アメリカ初のGNP(国民総生産)統計は1942年に発表されましたが、そこでは政府支出を含めた支出のタイプがいくつかに分かれており、戦争のための生産力を分析しやすい形になっていました。GDP統計の有用性について、NBER(全米経済研究所)の元所長だったミッチェル氏は「国民所得の推計がどれほど大きく第二次世界大戦を支えてきたかについて、戦争の費用調達に関わってきた人にしか理解できないだろう」と論じています[1]。しかし、戦争を機に生まれたGDPは、戦後、国際的に定義と測定が調整・統一され、戦後復興期にも大いに活用されることとなったのです。
実は、GDPの開発時に方法論を巡って激しい論争が起きています。開発責任者は当初、GDPを単なる生産量ではなく、国民の経済的な豊かさを測定することを目指していたと言われています。他方、政府側は、政府が支障なく財政政策の運用ができるデータの作成を目的としていました。政治的争いの結果、戦争を見据えた政府側の現実路線が勝ちを収めることとなったのです。
この決着は現在のGDP統計にも尾を引いており、GDPでは捉えきれていない国民の豊かさや幸福度を測る指標作成の試みにつながっていることも見逃せません。戦争を機に生まれたGDPは自然現象とは異なり人為的に作られたものですが、時代の変化や新しい経済システムを取り入れながら、現在も改良され続けているといえるでしょう。
[1] J. Steven Landefeld, “GDP: One of the Great Inventions of the 20th Century,” in Bureau of Economic Analysis, Survey of Current Business, January 2000における引用
執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士
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