棚卸資産の減耗、評価、処分損 ~レジ袋から広がる話~
2020.08.26
ウッドワーク社では輪番出社が続いている。一時期落ち着いたかに見えた新型コロナウイルスは、早くも第二波の様相を呈しており、在宅勤務は当面続きそうだ。さて、このところ、毎週金曜日に審査課の青山と経理課の木下の出社が重なるサイクルになっているため、金曜日お昼は特段約束をしているわけではないのに2人ともリフレッシュコーナーに来て、窓に向かって並んで昼食をとるという「新習慣」ができている。席をひとつ空けた、以前なら他の使用者に注意されそうな贅沢な席取りも、使用者が少ない今は問題ない。
先に来た木下が自宅から持参したランチボックスを取り出していると、青山がレジ袋を持って現れた。いつものコンビニ弁当、そこにミニカップ麺、エナジードリンクも詰め込まれて、袋がパンパンになっている。
「青山さん、まだレジ袋を使っているんですか?有料化が始まったのに・・・」
「そうなんですが、まだ有料でもレジ袋にしちゃっています。気を遣って小さいのを選んでいるのですが…」
「わからなくはありませんが、そういうのは“気を遣って”ではなく“ケチって”と言うべきではないでしょうか?」
「そういう木下さんは、レジ袋はもう使っていないんですか?」
「私は小さく畳んでスラックスのベルトループに取り付けると手ぶらになる、というマイバックを買いましたよ」
「それはいいですね。・・有料化はお店側も大変そうです。さっきもお客さんとレジ前で揉めていました」
「たしかに、消費者側からもお店側からも賛否両論、いろんな意見が出ていますね。紙袋や厚手のプラ袋は対象外になっているなど、わかりにくいという声も聞かれます」
「ちなみに、有料化によって何か会計的に変わるポイントはあるのでしょうか?」
青山は木下の顔を見ると会計のことを聞いてしまう、パブロフの犬状態になっている。
「有料か否かにかかわらず、商品以外のビニール袋や消耗品のお箸などは、期末に在庫をチェックして棚卸資産として計上するのが正しい処理です。これらは貯蔵品といった勘定科目として計上されるのが一般的ですが、その他の棚卸資産に合算されることもあります。大きく処理が変わることはないでしょうが、もしかしたらレジ袋は有料化によって商品と位置付けて処理する会社も出てくるかもしれません」
「棚卸資産ですか。与信管理の注目点です。ただ、貯蔵品という科目はあまり気にした記憶がありませんね」
「たいていは少額ですし、重要性が低いということで、あまり目立たない科目と言えますね。貯蔵品は通常、主たる商品や原材料以外の消耗品のようなものが該当します。例えば、総務で保管している未使用の切手や印紙のほか、コピー用紙や封筒といったものもこれに入ります」
木下はこの日の弁当にしたアラビアータのパスタをフォークに巻きながら、レクチャーモードに入った。
「そういった細々したものって、まさか、いちいち一つずつカウントして棚卸資産に計上したりはしませんよね?購入時に消耗品費などと費用計上すれば良いのではなかったですか?」
「もちろんです。こういったものを全て棚卸するのは、実務上の負担を考えると現実的ではありません。よって毎年一定の数を買って、経常的に消費するようなものは損金算入が認められています。でも会計事務所時代には細かい性格の社長がいて、キッチリ計上したがっていましたよ。しっかりした棚卸表をくれるので、私としては助かりましたけど」
「そうやって計上しても、貯蔵品の金額が大きくなるケースなんて、あるんですか?」
「はい。例えば、運送業におけるトラックに残ったガソリンも貯蔵品になりますが、会社の規模が大きくなれば金額が大きくなります。製造業なら、機械の燃料を決算期末でチェックして貯蔵品に計上することもあります」
「なるほど、それは大きくなりそうですね。他の棚卸資産に比べると脇役かもしれませんが、企業によっては注意を払った方がよさそうですね。棚卸資産といえば、この前も少し話してもらいましたけど、今期は商品在庫が増えたり、または処分せざるを得ない状況になったりしている会社が多そうですね」
青山はエナジードリンクを飲んでいる。いつもながら、マイカップで優雅に紅茶を飲む木下とは対照的である。
「そうですね。この3月決算ではまだ影響は小さかったようですが、これからは棚卸資産に関連した費用や損失の計上が増えそうです」
「棚卸資産に関連した費用って処分損くらいしか知りませんが、他にどのような費用や損失がありますか?」
「まずは棚卸資産の減耗ですが、これは実地棚卸によって帳簿と照らし合わせ、在庫の不足分を棚卸減耗費として計上します。通常の営業の範囲で生じるものは原価計上されるのが一般的ですが、臨時的で多額のものは特別損失に計上します。会計的には原価性があるかどうか、といいますね」
「なるほど。棚卸減耗というのはモノ自体がなくなっているときが該当するのですね。液体なんかは自然減もありそうですね。今のようなコロナで商品を処分せざるを得なくなった場合は、やはり特別損失ですか?」
「規模などを勘案しての個別判断になるでしょうが、処分損として特別損失への計上は十分想定されます」
「処分はしなくても、商品評価損を計上するというケースもあるんですよね?」
「はい。評価損は傷がついてしまって品質劣化が生じた場合のほか、もっと良い新製品が出てしまって経済的に陳腐化してしまった、というようなケースが該当します。コロナの関連では、マスクを高値で仕入れて、品薄解消で値崩れした、といったケースが該当しそうです」
「ゲーム機などは巣ごもり需要で商品の値段が以前より上がっていますよね」
「さすがに在庫の評価益は未実現利益ですので計上しませんが、市場の需給バランスの変化による価値の下落も、棚卸資産の会計基準に基づけば収益性の低下として評価損を計上することになります」
「ちなみに、その評価額というのは、今いくらで売れるかという基準で良いんでしょうか?」
「基本的にはそれでOKです。市場価格が把握できない場合は、期末前後での販売実績に基づいて決めたりします。ところで青山さん、意外と痩せましたか?」
「やっと気付いてくれましたね。外出は控えつつ、体を動かすゲームを買って運動しているんですよ。高価な筋トレグッズも買って、頑張った成果が出ています。でも、そのおかげで最近は金欠です・・・」
「青山さんは高カロリー摂取・高消費ですね。まずはレジ袋を買わずに節約すべきです」
木下のこの日のランチ・レクチャーは、至極ごもっともな教育的指導で閉幕となった。
棚卸資産の注目ポイント
新型コロナウイルス関連支援情報
https://www.tdb.co.jp/corp/corp09_covidrelatedinfo.html
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