企業の求める人材像の変化と“性格スキル”とは~景気のミカタ~
2020.11.19
新型コロナショックで変わる人材像と“性格スキル”とは・・
帝国データバンクが2020年10月に実施した調査[1]によると、企業が求める人材像としては「意欲的である」(43.1%)が最も高くなっています(図表1)。次いで、「コミュニケーション能力が高い」(41.0%)が4割台で続き、以下、「素直である」(25.4%)、「真面目、または誠実な人柄である」(19.5%)、「専門的なスキルを持っている」(18.1%)などが上位に上げられました。
これを2017年2月時点[2]と比較してみると、新型コロナショックを経ても、多くの企業が「能動型人材」や「協働型人材」といった資質を重視する傾向はあまり変わっていません。しかし一方で、リーダーシップや主体性の高さなどを求める企業は増加しています。加えて、創造性や高い問題意識を持つ「変革型人材」や専門的なスキルを持つ人材を望む傾向が高まるなど、いくつかの特徴が表れています。企業からは「オンラインでのコミュニケーションスキルを求める」(経営コンサルタント)といった意見もあがっており、労働者には今後定着していくとみられる新たな就業環境に適応する能力が求められるのではないでしょうか。
人材育成で注目される“性格スキル”
従来、心理学や経済学の分野では、人間の能力は学力テストで測ることができる認知能力と、学力テストで測ることができない非認知能力に分けられるとされてきました。また、幼少期における非認知能力と早生まれとの関係性などの研究[3]も進められています。
2000年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマン・シカゴ大学教授(米)は、これらの研究をさらに発展させて、遺伝的・先天的と捉えられがちな認知能力や非認知能力という呼び方を、それぞれ後天的に伸ばせることを意味する認知スキルおよび性格スキルに変更することを主張しています。
ヘックマン教授は『幼児教育の経済学』(2015年)[4]などでも一般に知られ、幼児期における教育の重要性を具体的に明らかにして、日本の成長戦略にも大きな影響を与えています。
とはいえ、幼児教育の重要性を強調しすぎると、幼児期を逃すと手遅れになってしまう、という見方を加速させるおそれもあるでしょう。しかし、同教授は、2つのスキルを形成するうえで幼児期は重要ですが、性格スキルは認知スキルと比べて年齢を重ねても概ね伸びしろが大きいことも明らかにしているのです。
さらに、性格スキルは幅広い学歴・職業で共通して大切な要素です。言い換えれば、性格スキルを高めることでどのような道に進もうとも、豊かな職業人生を歩んでいけるといえるでしょう。
性格スキルは“ビッグ・ファイブ”という形で分類されることが多くあります(図表2)。具体的には、目標に向かって粘り強く努力する「誠実性(真面目さ)」、探求心や好奇心の強さを表す「経験への開放性」、社交性や積極性を意味する「外向性」、相手のことを考えたり思いやる「協調性」、そして「神経症的傾向/感情的安定性」です。
ビッグ・ファイブのうち、とりわけ仕事の成果(業績)と最も強く関係しているのは「誠実性(真面目さ)」であることが知られています。また、賃金との関係では「誠実性(真面目さ)」と「神経症的傾向/感情的安定性」が強くなっています。さらに、現状、長期雇用を前提とする日本企業においては「協調性」も重要です。
実は、「誠実性(真面目さ)」と「神経症的傾向/感情的安定性」は、10代よりも20代・30代で大きく伸びることが分かっているほか、「協調性」は50代以降で急激に高まっていくとされています。つまり、日本での職業人生において大切となる性格スキルは、大人になってから十分に鍛えることが可能なのです。
なかでも「誠実性(真面目さ)」は人生を豊かにする最重要スキルともいえるでしょう。そして、「誠実性(真面目さ)」は以下のように定式化されます。
誠実性(真面目さ)=情熱×粘り強さ
情熱=興味×目的
したがって、「誠実性(真面目さ)」を伸ばすためには、対象に興味を持たせ、目的をはっきりさせることがカギとなってくるのです。
[1] 帝国データバンク、「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年10月)」、2020年11月11日
[2] 帝国データバンク、「人材確保に関する企業の意識調査」、2017年4月20日
[3] 例えば、Yamaguchi, Shintaro, Hirotake Ito and Makiko Nakamuro, “Month-of-Birth Effects on Skills and Skill Formation,” CREPE Discussion Paper , No.76, 2020 など
[4] Heckman, James J., Giving Kids a Fair Chance, MIT Press, 2013(古草秀子訳、『幼児教育の経済学』、東洋経済新報社、2015年)
執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士
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