女性労働者の活躍と待遇格差~景気のミカタ~
2020.12.18
今回の景気のミカタは、男女における待遇格差の存在が企業業績に与える影響について焦点をあてています。
男女間格差が依然として大きい日本経済
他方、就業人口の減少や共働き世帯の増加などもあり、職場における女性の存在感が高まっています。さらに、2022年には女性活躍推進法の改正を控え、主に中小企業に対して新たに女性活躍の情報公開が義務付けられるなど、女性の労働参加は大きな変革期を迎えています。女性の労働参加は、企業にとって新たな視点の創出や男性の働き方改革としても期待されている一方で、女性の労働参加に向けた課題は、未だ解決されていない問題が数多くあります。
男女の待遇差別による企業への影響
肉体的能力が決定的に重要である職業を除き、潜在的な職業能力は男女で変わりないと考えられるでしょう。労働における男女差別を説明する理論としては、主に「偏見説」と「統計的差別説」が知られています[2]。「偏見説」とは、企業が特定のグループに対して偏見を持っていて、そのグループの個人を実際の能力より低く評価するために差別が生じるというものです。言い換えると、女性は仕事を一時的なものとして考えているといった思い込みから、女性の能力を低く評価し、採用や昇進で男性と差を設けるという議論です。
もうひとつの「統計的差別説」とは、企業は女性の能力を全体としては客観的に正しく評価していますが、何割かの女性が早期に辞めてしまうため、男性を採用や昇進面で優先する、という説です。したがって、平均的にみて辞めることの少ない男性を優先する結果、能力が高く辞めるつもりもない女性が個人的に差別を受けるという考え方です。つまり、企業側と労働者側で情報の非対称性がみられるとき、企業は社員に行った訓練投資を確実に回収するためにリスク回避行動をとった結果として、差別が生じてしまうことになります。
しかし、こうした男女間格差の存在は企業の競争力にも影響を及ぼします。例えば、もし男女を均等に扱っているA社と、採用や賃金、昇進などで均等に扱っていないB社があった場合、有能な女性はB社からA社へと流れていくでしょう。有能な女性を獲得したA社では、彼女が能力を発揮する結果、A社の競争力も増すことになります。ここで、両社の競争力において第一の競争力格差が生じます。さらに、有能な女性が抜けたB社では、彼女より能力の劣る人物が仕事を行ない、昇進していくことになります。ここで、両社に第二の競争力格差が生まれてくるのです。
偏見による差別であれば、偏見を改める教育をすれば良いでしょう。ところが、統計的差別は企業が合理的な行動をとった結果として発生するものであり、教育や啓発とは異なる方法を見つけなければなりません。
とはいえ、これには企業が単独でできるものと、税や社会保障を含めた政府による対策が必要なものがあります。基本的には、男女間での定着度にバラツキがあるとき、女性の定着度を上げるために、女性の就業継続支援策の実施やワーク・ライフ・バランス(WLB)の推進が重要となります。特に、WLBについては、「WLB施策を充実させている企業ほど業績が上がる」という因果関係が、日本のデータで実証的に示されています。逆の因果関係ではないのです。また、WLB施策の実施と企業の生産性向上についても相関がみられています[3]。こうした結果は、企業業績の改善、人材確保や定着、社員のモチベーション向上などを考えるヒントになるのではないでしょうか。
[1]帝国データバンク、「女性登用に対する企業の意識調査(2020年)」、2020年8月17日
[2]大沢真知子編、日本女子大学現代女性キャリア研究所編、『なぜ女性管理職は少ないのか』、青弓社、2019年
[3]山本勲、松浦寿幸、「ワーク・ライフ・バランス施策は企業の生産性を高めるか?」、RIETI Discussion Paper Series 11-J-032、2011年
執筆:情報統括部 産業情報分析課 窪田 剛士
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