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  • 休廃業の可能性を予測する ~第1回 休廃業の現状~

2021.09.09

2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、当初は休廃業・解散件数の増加が予想されましたが、持続化給付金や無利子・無担保の貸付など様々な支援策が功を奏し、前年を下回る結果となりました。しかしながら2021年1月から6月の休廃業・解散動向をみると、全体では減少しているものの一部の業種では前年比で増加傾向に転じており、景況感や需要回復への期待から一転して経営再起への諦めムードが広がることで、事業者の倒産・廃業が急拡大する懸念は拭えません。

地域経済を支える企業の望まない休廃業を回避し、早期に必要な支援が行き渡る社会インフラの整備に貢献するため、帝国データバンクでは、信用調査によって収集した企業情報をもとに、企業が1年以内に休廃業・解散する可能性を予測する統計モデル「休廃業予測モデル」を開発しました。本コラムではモデル開発で明らかになった企業の特徴に触れながら、事業承継や休廃業の問題に関して解説していきます。

倒産と休廃業・解散の定義

企業の消滅と言えばまずは「倒産」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。そもそも倒産と休廃業・解散はそれぞれどのような状態のことを指すのか、本題へ入る前に帝国データバンクでのそれぞれの定義について説明します。

■倒産の定義
「倒産」という言葉は、法律用語ではありません。一般的には「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」を指します。具体的には、以下に挙げる6つのケースのいずれかに該当すると認められた場合を「倒産」と定めます。

1. 銀行取引停止処分を受ける ※1
2. 内整理する(代表が倒産を認めた時)
3. 裁判所に会社更生手続開始を申請する ※2
4. 裁判所に民事再生手続開始を申請する ※2
5. 裁判所に破産手続開始を申請する ※2
6. 裁判所に特別清算開始を申請する ※2

※1 手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けた場合
※2 第三者(債権者)による申し立ての場合、手続き開始決定を受けた時点で倒産となる


倒産は会社を清算(消滅)させる“清算型”と、事業を継続しながら債務弁済する“再建型”に分けられます。
清算型:「破産」「特別清算」、大部分の任意整理
再建型:「会社更生法」「民事再生法」、まれに任意整理の一部


■休廃業・解散の定義
一方で休廃業・解散は、「倒産(法的整理)によるものを除き、特段の手続きを取らずに企業活動が停止した状態の確認(休廃業)、もしくは商業登記等で解散(但し「みなし解散」を除く)を確認した企業の総称」としています。

どちらも企業が存続できなくなるという点では共通していますが、そのメカニズムは異なります。実際に弊社が作成している倒産を予測する「倒産予測モデル」では、企業の資金繰りに関する情報を中心に算出していますが、休廃業・解散を予測する「休廃業予測モデル」では代表者の属性や取引企業・金融機関との関係性を中心に算出しており、それぞれに使用するデータは異なります。

倒産の7倍!?休廃業件数の現状

図1 全国企業「休廃業・解散」動向調査(2020年) 帝国データバンク
さて、日本の企業が現在1年間にどれくらい倒産もしくは休廃業・解散しているのかご存知でしょうか。弊社が公表した2020年の集計結果では、倒産件数が7,809件、休廃業・解散件数が56,103件でした。前述の通り2020年は官民一体による様々な支援の結果、前年比で件数は減少してはいるものの、ここ5年間倒産は8,000件前後、休廃業・解散は56,000~60,000件前後で推移しており、休廃業・解散の件数は倒産よりも約7倍多い状況です(図1)。
また、2021年1月~6月の休廃業・解散件数は28,400件と前年同期比で4.6%減でしたが、業種別にみると件数にばらつきがあります。観光関連の休廃業・解散が前年から大幅に増加しており、「ホテル・旅館」(104件)は過去5年で初めて6月時点で100件を超えたほか、旅行代理店など旅行業全体の休廃業・解散は過去最多ペースとなっています。

2021年1-6月 全国企業「休廃業・解散」動向調査
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210705.html

休廃業の主な要因 ~後継者不足~

図2 全国社長年齢分析(2021年) 帝国データバンク
倒産よりも約7倍も多い休廃業・解散ですが、その要因はどこにあるのでしょうか。様々な要因はあるものの、今回はその1つである後継者不足について見てみます。2020年に弊社が発表した『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』によると後継者不在の企業は全体平均で65.1%と、3社に2社が後継者不足となる高水準であり、事業承継の検討期に入る50代は後継者不在が7割に迫る点も課題といえます。

また、日本政策金融公庫が2020年に発表した『中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年)』でも、後継者難を理由に廃業を予定する企業が29%もあることがわかりました。社長の平均年齢は、弊社が毎年行う『全国社長年齢分析』でも年々右肩上がりで、2020年は1990年の調査開始後初めて60歳を上回りました(図2)。
高齢化が進む中、後継者不足に悩む企業への支援が遅れれば今後も休廃業・解散件数は減少せず、高水準で推移していくことが予想されます。

休廃業は他人事ではない

倒産がもたらす悪影響は焦げ付きの発生などイメージしやすい一方で、休廃業・解散はなんとなくマイナスイメージを持っているが、実際どのようなことが問題になるかピンときていない方もいるのではないでしょうか。代表的な休廃業・解散の影響として雇用消失、消費の減少、サプライチェーン維持不能、技術やノウハウの消失などが挙げられます。雇用への影響を具体的に数値であらわすと2020年の休廃業・解散件数56,103件で、87,366人分(正規雇用)の雇用機会が消失しています(図1)。サプライチェーン維持に関しては、取引のあった下請けメーカーが急に廃業することになった場合、その代替となる会社を探すことは大変な労力を要します。
企業の休廃業・解散は、このように地域経済にとってマイナスの影響をもたらし、決して他人事ではありません。地域や産業ごとに実態は異なりますが、特に自社の取引先や関係する業界の動向は注視する必要があるでしょう。


次回は「第2回 相談できない事業承継問題」です。
◆休廃業の可能性を予測する バックナンバー

第1回 休廃業の現状
第2回 相談できない事業承継問題
第3回 休廃業予測活用事例

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