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  • 本質を理解し、向き合い方を知らずしてデータ活用には至らない 第3回

2021.11.29

第3回 データ社会の今後期待される2つのこと

今後もテクノロジーの進展とデータへの注目が相まって、よりデータ活用の場面は増えてくると思います。2017年がビッグデータ利活用元年ですが、そこからまだ10年と経っていません。ただ、第二次産業革命によって1900年のニューヨーク市が馬車と徒歩で移動する街並みから、1913年には車と徒歩に置き換わり、馬車を見かけなくなったように変化とはあっという間であり、データ社会における変化はそれに匹敵するほど大きな変化を我々の社会にもたらすものだと思います。そんな中、今データの時代と言われているものの、どんなデータを持っているのか、どんなデータがあったらいいかの議論を多くの企業でしているところで、最近データを集め始めたというところが多いと思います。

そのため、帝国データバンクのようなデータを従来から蓄積している企業とデータ収集を始めた企業とでは、データの解像度は異なり、互いに組み合わせて新しい視座を得られるデータを作ってみようという議論があっても、十分な量のデータとまだ途上のデータでは相性が悪く、データを掛け合わせて見えることを探ろうという機運はまだ歩幅が小さいように思います。ただし、当然十分な量のデータを持っている企業同士もいますから、そうした企業は互いのデータを組み合わせて新たな付加価値の高いデータとなりえるか、共同研究を通して模索しているところもあります。異なるデータを組み合わせる試みをデータマッシュアップといいます。このデータマッシュアップの取り組みも今後進展していくと思いますが、それも段階的なものがあるでしょう。
図10 企業立地 帝国データバンク「HELFECLOU閲覧サービス」より一部抜粋
一番簡単なデータマッシュアップは地図データと緯度経度やエリア情報を持つデータとの組み合わせです。例えば、日本地図と津波や洪水などのハザードマップデータ、企業や事業所の立地データを組み合わせて可視化すると立地リスクや取引リスクのようなものが見えてきます。これは、データそのものを組み合わせるのではなく、異なるデータの状態で可視化ツール上に重ねて見るケースです。企業データをマッピングしてみると、都道府県別の企業一覧やグラフで見るのと違い、どの地域に取引先企業が多いのかという情報以外にも、企業の立地が国道や高速道路近辺に多いことが伺い知れると思います。こうした企業のふるまいがあるからこそ、道路整備やその効果を測定することは重要となります。こうしたマッシュアップはデータ側で処理をするというよりは、ヒト側の頭の中で組み合わせて得る情報をもって解釈し、示唆を得るというものになります。
図11 取引先地域分布 帝国データバンク「HELFECLOUD閲覧サービス」より一部抜粋
複数種のデータを可視化の段階でマッシュアップするものもあれば、複数種のデータを組み合わせて一つのデータにする、もしくはある指標を開発して事象を指し示すというマッシュアップの形もあります。ただし、これにはデータ間の特性を踏まえた相性もあるので、そう簡単にはいかないのが実情です。片方のデータは日次で事象を計測できるデータであるのに対し、もう片方は年次でしか事象を計測できないデータだった場合、年次データを細分化することは難しいため、日次データを年次データとして扱うほかなく、日次データのデータ特性を殺してしまう結果となります。日次データは日次で観測できるからこそ意味のあるデータなので、この2つのデータは相性が悪く、年次単位の指標を作れたとしてもそれが示唆するものは少ない可能性があります。ただし、今後は充足されたデータが増えていくことによって、こうしたデータ特性の相性の悪さが徐々に解消され、可能性が広がっていくことは十分見込めると思います。

今後そのような可能性が広がってくると、あらゆるデータが組み合わさり、組み合わせパターンが充実してくることによって、誰かが決めたデータの組み合わせ結果を見るのではなく、データ活用する主体が自らその組み合わせを選択し、そこから活用の文脈と合わせデータで示されたファクトをもとに意味づけをしていくような動きが生まれてくるのではないでしょうか。こうした動きが生まれると、例えば企業データのような経済系のデータが経済を説明するだけじゃなく、社会づくりやインフラ整備、BCPなどリスクマネジメント、地域の街づくりなどの分野でも活用されるようになり、データが本来持つ説明領域が拡張され、データで説明できる範囲が広がっていくことが期待されます。

線や面を実現するためのバウンダリースパナーや越境人材の存在

こうしたデータ社会には当然、データ分析をするデータサイエンティストの存在は欠かせません。またデータエンジニアと呼ばれるデータ整備やデータ基盤を構築する専門職の存在も重要となります。しかし、ここではもう一つ重要なポジションの話をしたいと思います。越境人材という存在です。経済産業省は「越境人材を中核とした新産業共創エコシステム構築事業」という事業を取り組むなど、その存在の重要性が表立って着目され始めています。私はこの存在をboundary spannersという表現で説明することが多いですが、意味することは同じです。boundary spannersは日本語に訳せば、境界連結者といい、提携やM&Aなど企業や組織同士の関係が複雑化していく中で近年重要視されている役割でもあるものですが、役割としては、点と点をリンクさせ、要素間結合することで各点の機能を最大限発揮するよう作用することにあります。

具体的にやっていることとしては、「情報の取捨選択」、「解釈」、「要約」、点から点へ共有する「知識移転」、点と点を結び「第三の空間創造」です。ここでいう知識はビジョンやアイデア、情報、ヒト、資源、価値観など点と点が作用するために必要な要素群を指し、戦略的に知識移転することが役割になります。また、第三の空間創造とは、点と点が互いに相容れない状態となっている場合、それぞれの土俵でものを語るのではなく、共通項となりえるベクトルを作り、そこに対する価値基準で互いに協力して物事を推進できるように促すということです。例えばデザイナーとエンジニアはそれぞれ異なる価値基準を持ち、ベストパフォーマンスを判断していますが、得てしてデザイナーとエンジニアではベストな選択肢が異なり、互いに衝突しているようなケースを見かけます。これは私が担当したプロジェクトで実際に起きたことです。この場合、どちらか一方に肩入れするというのではなく、両方が共通して目指すベクトルを作り出し、点と点がバラバラな状態で進めるのではなく、点と点を結び面として新しいベクトルと空間を作り出すようなイメージです。私がここであえてこの話をするのは、世の中の構成要素を究極的に抽象化したら、点と線で成り立っていると思っているからです。ある空間にヒトが複数集まれば社会が形成されるわけではなく、ヒトとヒトが相互に関係をもつことで初めて社会が形成されるように、心臓や肝臓単体だけでは機能せず、動脈・静脈でつながることで初めて臓器として機能するように、要素となる点とそれを作用する線・リンクが機能することには必要条件だと思います。

ある程度フォーマット化されれば点と点が互いに手を差し伸べることでリンクすることもあるでしょうが、ことさら新しいプロジェクト、複雑なプロジェクト、未知なプロジェクトにおいては一旦要素となる点は集められるものの、なかなかそれらが結びつかずに終息していくことも事実としてあります。boundary spannersは結びつきとして機能することを目的として取捨選択、解釈、要約を通して知識移転し、情報非対称性を解消することで点と点をリンクさせ、面を作り出します。プロジェクトとしてはそういう話ができますし、R&Dと事業化には超えるべき死の谷(デスバレー)があるという話や、新規事業と既存事業の関係でも出てきます。異なる要素が一つの成果に関連する際に、よく優劣やVS構造で話されがちですが、それをいかに共存共栄して、VSやORではなくWithやAND関係にしていくかが求められることだと思っています。その意味ではデータとヒトが結びつくうえでデータ分析を主とする人材と複数の組織や領域を連結させていく人材がどちらも必要とされてくるでしょう。


執筆:企総部企画課 六信 孝則
<バックナンバー>
第1回 なぜデータが今そこまで注目されるのか
第2回 目的なき文脈を避けるための目的の特定方法
第3回 データ社会の今後期待される2つのこと(本コラム)
第4回 本質を理解し、向き合い方を知らずしてデータ活用には至らない

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