会計上の「利益」とは?|財務会計のイロハのイ
2022.01.26
会計上、「収益-費用」で算出される利益ですが、この収益と費用はどのように決算書に計上されるのでしょうか。「時期」をキーワードに理解を進めましょう。
新入社員「家計簿もアプリのおかげでなんとか続けられています!アプリに銀行口座やクレジットカードを登録すると、自動で計算してくれるので・・・。ただ、収支では黒字のはずなのに、預金残高は減っている月があったり、その逆が起こる月があったりするのですよね・・・。こういったことは、会社の会計でも起こるんですよね?」
先輩社員「そこは重要なポイントですよ。いい機会ですので、一緒に考えてみましょうか!
家計簿上の収支と、預金残高の間でなぜそのようなズレが生じるかというと、収支を認識・・・つまり家計簿上に反映するタイミングと、現金が動くタイミングは必ずしも一致しないからです。例えば、今日のお昼ご飯に1,000円を現金ではなくクレジットカードで支払うとします。家計簿にはおそらく、今日の昼食代として支出に計上されますが、クレジットカードの引き落とし日が来月だとしたら、今月の預金残高はどうなりますか?」
新入社員「今月の預金残高には変動なく、来月の預金残高からマイナス1,000円される、ということですね?」
先輩社員「そうです。なぜ家計簿の収支と預金残高の増減にズレが生じるのか、なんとなくイメージがつきましたか?会社の会計においても、基本的な考え方は同じです。家計簿でいうところの収支、つまり企業会計の利益は『収益-費用』で算出します。収益は売上、費用は仕入コストや人件費などのことです。ここでポイントになるのは、収益や費用をそれぞれどのタイミングで認識するか、つまり決算書上に計上するか、ということです。」
新入社員「先ほどの昼食代のように、現金の動きとは関係なく決済したタイミングで、ということでしょうか?」
先輩社員「現金の動きとは関係ない、というのは正解ですが、企業会計の場合、会計基準によってそのタイミングが決められています。まず収益です。こちらは2021年4月から始まる会計年度から新しい収益認識基準が上場企業等に強制適用となりましたが、厳密に理解しようとするとかなりやっかいなので、それは別の機会にしましょう。とりあえず今日は売り手が『商品を売る』あるいは『サービスを提供する』という義務を果たしたときにその分の売上を計上する、とざっくりイメージしておきましょう。『その分の』と言ったのは、仮にそのサービス提供が長期間に及ぶ場合、例えば3年がかりの工事であれば、完成まで待たずに1年ごとに終わった分を売上計上するイメージです。義務を果たすことで認識するので、現金の受領は関係ありません。」
新入社員「なんとなく、ではイメージできました。新しい基準が適用されない企業はどうなるのですか?」
先輩社員「中小企業等はこれまで通りの考え方でも良い、ということになります。これまでの基準では義務を果たすという考えではなく、代わりに営業債権という権利の受領を要件にしており、『実現主義』と呼ばれています。こちらも売掛金などの権利の受領でよいので、やはり現金の受領は関係ないですね。その他、細かな違いはもちろんありますが、今日のところは気にしないでいきましょう。」
新入社員「わかりました!いずれにせよ、収益は現金の受け取りとは必ずしも一致しないということですね。」
先輩社員「それでいいです。では次は『費用』ですね。こちらもやはり現金の支出とは関係なく、発生をベースに認識します。ただ、発生した時点で全てを一括で認識するわけではなく、先ほど認識した収益と対応させて、こちらも期間で配分します。例えば、機械を買ったらその時点で費用として一括計上するわけではなく、減価償却費という形で耐用年数、つまり機械を使えると思われる期間や機械による投資効果が期待できる期間で配分することになります。」
新入社員「なるほど。確かに有形固定資産のところで、機械が出てきましたよね!買った時点では費用ではなく資産という形で計上されるということは以前学びましたが、ここで繋がりました。」
先輩社員「以前の復習もばっちりですね。仮に機械を現金一括で購入していた場合、預金残高はその時点で機械の代金の全額分減ることになりますが、決算書上には数年かけて少しずつ費用計上されるわけです。」
新入社員「費用も現金の支払いとは一致しないということが分かりました!収益も費用も一致しないのだから、その差額の利益ももちろん一致しない、ということですね。家計簿の方も、月々の収支はもちろんですが、残高不足にも気をつけて、引き続き頑張ります!!」
ポイントの整理
②収益と費用は、現金の受領と支出とは無関係に認識(決算書上に計上)される
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