原価と販売費及び一般管理費|財務会計のイロハのイ
2022.02.07
今回は、損益計算書の費用として計上されている「原価」と「販売費および一般管理費」を解説しています。数字だけでなく、裏付けとなる背景を探る重要性をお伝えします。
新入社員「さすがにそこは大丈夫です。最後の税引き前・後の当期純利益も忘れませんよ!」
先輩社員「何度か損益計算書の各項目を書き出して復習していましたよね。では、補足に入りますが、まずは『原価』と『販売費及び一般管理費』の関係性についてです。販売費及び一般管理費は『販管費』と略して話を進めますね」
新入社員「売上と直接結びつくのが『原価』と聞きましたが、経費をどちらに区分計上するかは、少しイメージしにくいです」
先輩社員「そうですね。経費切り分けの例として、賃金・給料を挙げてみましょう。工場で働いている方への給料は原価へ、役員や営業所などで事務をされている方への給料は販管費といった切り分けが一般的です。このように、ベースは業界慣習から発展した原価計算基準などによって原価と販管費の切り分けがされますが、会社の裁量によって切り分けられます」
新入社員「原価項目をつくらない会社もあるんですよね?」
先輩社員「例えばサービス業の場合で、明確に原価を特定できないケースなどは、販管費にまとめて計上されることもあります。ですから、売上総利益率の良し悪しだけ見て、その会社を判断してはいけませんよ」
新入社員「確か、売上総利益率が大きく動いていて、原価を見てみると前期と中身が全然違うこともありました。これは、どういったケースで発生するんでしょうか?」
先輩社員「その会社によって様々な事情が想定されますが、例えば、事業の一部を分社化するなどに伴って、原価の範囲が大きく変わるということもあるでしょう。逆に吸収合併が発生することもありますので、そのような大きな動きが確認できたら、原価明細に限らず、貸借対照表についてもどのような変化が生じたか、しっかり確認する必要はあるでしょう」
新入社員「決算書の数字だけではなく、その原因として裏付けとなる背景を探るべきですよね」
先輩社員「その通り、定性情報の収集も重要です。話を原価に戻しますが、製造業や建設業においては、特に原価明細は注目すべき帳票であることには違いありません。その会社のビジネスモデルが表れることも多く、強みや弱みの把握につながることもありますからね」
新入社員「具体的にはどのように判断すれば良いんでしょうか?」
先輩社員「例えば、売上は大きくても粗利が少ない会社は、自社での生産能力を超えた受注をして外注費支出で利益を減らしているのかもしれません。また、売上が下がっているのに期末の材料や製品の棚卸が増えている場合は、ヒット商品の見込みが外れてしまったのかもしれませんよ」
新入社員「なるほど・・・。では、販管費明細を見る上で注意すべきポイントはありますか?」
先輩社員「いろんな視点がありますが、例えば、しっかりと役員報酬を取れているか、賞与を支給して従業員に還元する余裕があるのか、といったところは注意して見るようにしています。中小企業だと、利益がわずかである会社も少なくないですが、実態を見極めるヒントを拾うことができます。販管費にも、ビジネスモデルが現れることがありますよ」
新入社員「交際費が多いと、社交的な社長なのかな、とイメージすることもあります・・・」
先輩社員「おもしろい視点ですね。他には、小売業で消費者に商品をしっかり覚えてもらう必要がある会社では、広告宣伝費が多額に計上されているなど、特に多く計上されている科目の理由をつかめると、その会社の理解につながります」
ポイントの整理
会社を経営していく上で経常的に発生するコストは「販売費及び一般管理費」に区分される
■「原価」と「販売費及び一般管理費」の区分は、業界慣習や原価計算基準をベースに
切り分けられるが、実務では会社の裁量によって計上区分が決められることもある
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今回紹介した「原価」に関して、具体的に施策する視点で管理会計を解説しています。商流を把握するために会計面を活用できることをお伝えしています。
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