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  • なぜ若手人材が流出するのか、離職率の常識を疑う~景気のミカタ~

2022.02.18

ようやく採用した貴重な人材が離職するのは企業の痛手・・・

今回の景気のミカタは、新型コロナ下で就職・採用活動が変わるなか、人手不足感が再び高まりをみせる一方で、新卒者の離職率とその背景について焦点をあてています。

再び高まる人手不足感、新型コロナ下で変わる就職・採用活動

図表1:人手不足割合の推移
企業の人手不足感が再び高まってきました。帝国データバンクの調査[1]によると、2019年まで5割を超えていた人手不足割合は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大で2020年5月には正社員が29.1%、非正社員は15.2%まで低下していました(図表1)。

その後は経済活動の再開にあわせて再び人手不足感が高まりつつあります。直近の2021年12月では正社員が47.5%、非正社員も27.7%まで上昇しています。依然として新型コロナ前の水準までには至っていませんが、半数近くの企業で、正社員の人手が足りないと考えている様子がうかがえます。

このような新型コロナ下において、企業の採用活動は大きな変化を遂げてきました。なかでも最大の変化は、多くの企業でオンラインによる面接が行われるようになったことではないでしょうか。これまで、就職活動にかかるコストは、都市部と比べて交通費や宿泊費などが必要となる地方在住の学生とって大きな負担となっていました。しかし、オンラインによる面接であれば、遠方に住んでいたとしてもコスト負担はそれほど変わりません。そのため、居住地の違いですみ分けられていた就職活動は、地理的な垣根を超える競争に変わったといえるでしょう。

こうしたなか、文部科学省と厚生労働省が公表した「令和3年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(12月1日現在)」によると、大学生の就職内定率は83.0%で1年前(2020年12月1日)より0.8ポイント上昇しました。新型コロナの感染拡大で落ち込んだ前年からわずかに回復の兆しがみられます。

新卒者の離職率は30年以上変わらず、人材の定着には就職後の対策が重要

図表2:新規学卒者の就職後3年以内離職率の推移(大卒)
一方で、企業側からみると、新卒新入社員は経営戦略を踏まえた事業計画のもと、人手不足が続くなかで獲得した、貴重な人材です。そのため、新入社員が企業の将来を担う重要な人材として成長することを期待しているでしょう。

しかし、こうしてようやく獲得した人材が短期間で離職してしまうと、企業にとっては大きな痛手となります。厚生労働省「新規学卒者の離職状況」によると、大学卒業者では2018年4月の新規学卒就職者の31.2%が、就職後3年以内(2018年4月1日から2021年3月31日まで)に離職しています(図表2)。事業所規模別では、5人未満は56.3%と半数超に達しているほか、1,000人以上でも24.7%となっており、いわゆる大手企業においても大卒新卒者の4分の1が3年以内に辞めているのです。

このような状況を受け、「最近の若者は忍耐力がない」「ゆとり世代やさとり世代は考え方が甘い」などと言う人もいますが、はたしてそれは本当でしょうか。

上記の調査をみると、就職後3年以内に離職する割合は、バブル崩壊直後の数年間を除き、1987年以降30年以上にわたって概ね3割前後で推移しています(図表2)。つまり、景気変動による増減はあるものの、少なくとも現在の50代以下の年齢層では、就職後3年以内の離職率について大きな違いはないのです。

では、離職者はどのような理由で離職しているのでしょうか。労働政策研究・研修機構の2020年の調査(「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成II」2020年3月)によると、新卒3年以内に初めての正社員勤務先を離職した理由について、男女ともに「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」がトップとなり、「肉体的・精神的健康を損ねた」、「人間関係がよくなかった」が続いていました。

この結果から、若者の離職理由は一般的に思い浮かぶ労働条件や仕事内容にとどまらず、健康を損ねたことや人間関係が大きな理由となっていることが分かります。

このうち、労働条件や仕事内容については、採用活動・就職活動における企業・求職者双方のコミュニケーションを高めることで、こうしたミスマッチはある程度防ぐことができるのではないでしょうか。

しかし、肉体的・精神的に健康を損ねることや、同僚・上司・部下・取引先などとの人間関係は、日頃の業務のなかで生じることで、採用前の段階でミスマッチを防ぐことは難しいところです。自社の将来を担う人材を失うことは、企業にとって大きな損失です。近年の研究で、従業員の良好な健康や円滑な人間関係は企業業績の改善に寄与することが明らかにされています。職場環境を整えることは被雇用者にとっても経営者にとっても重要なポイントといえるでしょう。

[1] 帝国データバンク「TDB景気動向調査」

(情報統括部 産業情報分析課 主席研究員 窪田剛士)

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