ウクライナ情勢の変化が起こす日本経済のパラダイムシフト~景気のミカタ~
2022.03.17
今回の景気のミカタは、ロシアによるウクライナ侵攻が原油価格の上昇を通じて企業の価格設定行動、さらに家計の消費行動の変化にもつながることについて焦点をあてています。
本物の有事に直面するなかで進まない円買い
しかし、2021年12月から続くロシアとウクライナにおける情勢では、おおむね1ドル115円前後で推移していました。2022年2月24日(日本時間、以下同)にロシアがウクライナに侵攻して以降も外国為替市場で円高に進む動きはみられていません(図表1)。逆に、ここにきて円よりもドルや金が買われ、緩やかな円安ドル高傾向となっています。
上記のコラムで挙げた事例は、経済的ショックや国内での自然災害、そして日本が直接関わらない戦闘行為でした。ところが今回は少し様相が異なっているようです。国際金融市場の関係者によると、「一部の海外の機関投資家の間では、日本はすでに当事国」として考えられているのです。
辞書で「戦争」の意味を調べると「1.たたかい。いくさ。合戦。2.武力による国家間の闘争」(広辞苑 第七版)とあります。そのため「遠いヨーロッパの東側で行われている戦争」と捉えている方も多いのではないでしょうか。
しかしながら「戦争」についての解説には、「ある政治目的のために政治、経済、思想、軍事的な力を利用して行われる政治集団間の闘争」(世界大百科事典 第2版)とも書かれています。日本はロシアに対して、大手銀行のSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除や、ロシア中央銀行の海外における資産の凍結など、金融分野を中心にさまざまな経済制裁を発表しています。
したがって、日本は直接的な武力行使をしていませんが、海外の投資家からすでに“戦争に参加”しているとみられているのです。こうした現実のなかで、基軸通貨であるドルや究極の安全資産である金が買われ、その結果として緩やかな円安が続いていると言えるでしょう。
原材料価格の高騰は家計の消費行動の変化につながる
こうした原油や原材料の価格上昇に円安進行も加わり、企業間の取引価格を表す国内企業物価指数は、2022年2月に前年同月比プラス9.3%となり、1981年以降で最大の上昇率となりました。
この価格上昇は海外での原材料価格の動きを反映しており、いわゆるコストプッシュ型の価格上昇となっています。このような価格上昇においては、企業にとっていかに仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁できるかが重要になります。
しかし、帝国データバンクが行った調査[2]によると、自社の主な商品やサービスについて原材料の不足や価格高騰による「影響がある」とした企業は77.3%にのぼりました(図表2)。そのうち、特に「価格転嫁は全くできていない」企業は36.3%に達しています。
また、国内企業価格の上昇は、1~2年程度で消費者物価へと反映されます。TDBマクロ経済予測モデルによると、国内企業物価が1.0%上昇すると消費者物価上昇率を0.1ポイント程度押し上げると推計されます。そのため、2月に国内企業物価指数が9.3%上昇したことから、今後、消費者物価上昇率が0.9ポイント押し上げられる要因になるとみられます。消費者物価は2021年4月の携帯電話通信料の引き下げによる下押し要因が来月以降に剥落します。消費者物価が上昇することによって家計の消費支出への影響も懸念されるでしょう。
このように考えると、遠いヨーロッパの東側で起こっている戦争も、国際金融市場や原油・原材料などの国際商品市場、さらに外国為替レートを通じてコスト負担の高まりを受けた企業間取引価格の上昇を経て、家計の消費行動にも影響を与えることが見えてくるのではないでしょうか。
[1] 「『有事の円買い』で進む円高の行方は?~景気のミカタ~」(2019年8月19日)
[2] 帝国データバンク「原材料不足や高騰にともなう価格転嫁の実態調査」(2022年2月9日発表)
(情報統括部 産業情報分析課 主席研究員 窪田剛士)
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