BS・PLを組み合わせた運転資金分析・前編|財務会計のイロハのイ
2022.05.10
Vol.21から財務分析について解説しています。今回はその中でも「運転資金分析」についてです。以前に当コラムでも紹介した「回転期間」を使って求めていきますので、復習しながらレベルアップを目指しましょう!
新入社員「はい。貸借対照表の流動資産の説明で、売上債権回転期間、また棚卸資産回転期間を教えてもらいました。月商比の考え方ですよね」
先輩社員「その通りです。復習になるところがありますが、この考え方は非常に重要なので、もう一度確認しておきましょう。その2つの回転期間は、どのように見れば良いかわかりますか?」
新入社員「業界平均や過去からの推移を見ていけば良いと思いますが、基本はどちらも短い方が良いんでしたよね?」
先輩社員「そうですね。売上債権は入金待ちの資産ですし、棚卸資産もできれば早く売ってしまった方が良いでしょう。売上の規模が変わらないのに、どんどん売掛金や在庫が増えていっていたら、不良債権や不良在庫、それに、架空計上といった粉飾の可能性も考えられます」
新入社員「在庫を多く抱えていると管理のためにリソースを割かなければいけませんし、価値が低下するリスクもありますよね」
先輩社員「ただし、反対に棚卸資産が過剰に少ない時は商品在庫を確保できていないケースも想定されます。背景となる事情とともに把握しておきたいところです」
新入社員「それは考えが及びませんでした。確かに、原材料高騰で取り合いになっていて確保できないことも起こるかもしれませんよね。数字の結果だけでの決めつけは良くない、というのは忘れないようにします!」
先輩社員「その通りです。また、月商比の考え方は、負債にも使えます。例えば仕入れをしたが、未払の債務に対しては、仕入債務回転期間という指標があります」
新入社員「それも、短い方が良い指標ですか?いつかは払わなければならないお金だから、当然ですね」
先輩社員「確かにそうですが、支払いを伸ばすと手元にお金をキープできます。先ほど登場した、売上債権回転期間、棚卸資産回転期間と比較することで、営業サイクル内での回収と支払のバランスを把握し、おおまかな資金繰り分析ができます。この考え方を『運転資金分析』と呼びます」
新入社員「分析結果をさらに組み合わせて求めるんですね。少し難しそうです…」
先輩社員「今日は、この言葉とその意味をざっくりとで良いので、ぜひ覚えてください。『売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間』を計算して、『必要運転資金』を求めることができます。これが何を意味するかイメージできますか?」
新入社員「うまく言葉にするのが難しいのですが・・・この金額が大きすぎると、結局は売掛金や棚卸資産が大きくて資金繰りに不利な気がします」
先輩社員「そこまでわかれば、ひとまずOKです。言わば、売上債権と棚卸資産は入金待ち、仕入債務は支払待ちですので、差額は当社が立て替えているお金の規模と見立てることができます。なお、BSの科目である売上債権や棚卸資産、仕入債務は、あくまでも期末日の一時点における金額である点は注意しましょう。期末にたまたま多く仕入れたなど何らかの突発的な要因で各回転期間や必要運転資金算出結果が大きくなっていないか、年々増えている、つまり資金繰り構造が不利になっていないか、というように見ることが肝要です」
新入社員「売掛金も在庫も全くなくて、算出結果がマイナスになったらどのように判断すればよいのでしょうか?」
先輩社員「なかなか良い目の付け所です。次回、この運転資金分析をもう少し掘り下げて説明しましょう」
ポイントの整理
回転期間の復習
■流動資産 前編(当座資産)|財務会計のイロハのイ
貸借対照表の流動資産の説明でより精緻な分析をするためには、現預金の月商比や売上債権回転期間の把握をすべきであることをお伝えしました。ポイントの整理しながら、復習してみてください。
〈棚卸資産回転期間〉
■流動資産 後編(棚卸資産)|財務会計のイロハのイ
棚卸資産について深堀をした上で、月商比としての棚卸資産回転期間のチェックが重要であることを説明しています。
関連コラム
運転資金の分析方法や見方について解説しています。より詳しい内容になっていますので、理解を深めて実践で活用できるようにしていきましょう。
■企業審査人シリーズvol.59:銀行取引・資金現況その5【続・運転資金分析】
上記のコラムの続きとなっています。運転資金分析の注意点についても触れていますので、ぜひご確認ください。