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  • 美術史を学ぶビジネスパーソン~景気のミカタ~

2022.09.16

人手不足感が再び高まるなか、美術史で国際感覚を身につける!?

今回の景気のミカタは、企業の人手不足が再び高まるなかでどのような人材像が必要とされているのか、また海外進出の広がりにともなう国際感覚のある人材について焦点をあてています。

再び高まる人手不足、企業が成長するために必要な人材を確保するために

図表1
企業の人手不足が再び高まってきました。人手不足が最も顕著となっていた新型コロナ禍前の水準へと既に近づきつつあります。新型コロナ禍3年目となり徐々に景況感が回復傾向にあるなかで、人手不足が企業の成長を阻害する要因となれば、国内経済にも影響を与える可能性があるでしょう。

帝国データバンクが毎月実施している調査[1]によると、2022年7月における従業員の過不足状況は、正社員が「不足」している企業は47.7%でした(図表1)。前年同月から7.0ポイント上昇、2年前と比較すると17.3ポイントの大幅上昇となっています。新型コロナ禍前の人手不足割合に近い水準まで上昇しており、半数近い企業で人手不足感を抱えている状況が明らかとなりました。なお、人手が「適正」と感じている割合は42.5%、「過剰」は9.8%でした。

こうしたなか、9月5日には高校生の求人応募書類の提出がスタートしたほか、10月は大手企業を中心に大卒学生の内定通知が行われるなど、新卒者の来年度入社に向けた動きが活発化しています。

帝国データバンクの調査[2]から企業が採用活動において求める人材像をみると、企業の4割超が「コミュニケーション能力が高い」(42.3%)と「意欲的である」(42.2%)をあげていました(図表2)。
しかし、新卒採用と中途採用という採用形態別では少し様相が異なっています。採用形態別の新卒と中途で5ポイント以上の差がある項目をみると、新卒採用をメインとする企業では、「コミュニケーション能力が高い」「精神的にたくましい」の割合が高くなっていました。他方、中途採用をメインとする企業では「真面目、または誠実な人柄である」「専門的なスキルを持っている」の割合が高くなってきます。

企業からも、新卒者に関しては「技術職として資格取得や現場での経験を積んでいくためには、専門的なスキル以上に、年配者や有資格者とのコミュニケーション能力などが求められる」(一般土木建築工事)といった、育成するうえで必要な基本的資質を重視する意見が聞かれます。

一方で、中途入社者には「ソフトウエア開発技術者を求めているが、未経験者を雇用すると生産性が出せるようになるまでの期間が長くなってしまうため、どうしても専門的スキルを有している人材となる」(ソフト受託開発)や「顧客の秘められたニーズを掘り出し解決するためには、話が上手いかよりも、根底にある人柄をもとにした信頼関係が一番大事となる」(工業薬品製造)など、即戦力としての専門的スキルと誠実さなど人柄を重要視する傾向が表れていました。

美術史を学ぶビジネスパーソンが増加、教養としての国際感覚を備えた人材を育成

図表2
このような状況のなかで、いま美術史を学ぶビジネスパーソンが増加していると言われています。経済のグローバル化が進むにつれ、主に欧米を中心とした「自国の美術史の話をできなければ社会人として恥ずかしい」という考え方に触れる機会が増えていることが背景にあるようです。

これまでも、海外旅行や留学先などで、自国の歴史に関する話ができることは最低限の教養とみなされてきました。

欧米における「美術」とは、直接的な政治や宗教と異なり、最も無難な話題であると同時に、それぞれの時代や宗教、政治、哲学、風習などが美術品や建築に盛り込まれています[3]。
つまり、美術史を学ぶとは、その国の歴史や文化、価値観を学ぶことにつながるといえるのではないでしょうか。
そのため、海外への進出を考える企業が増えていることが背景となり、いわゆる幹部候補たちを対象にその教養を身につけさせているのです。

しかし、美術にこうした要素が含まれているのであれば、美術史はビジネスエリートのためだけでなく、美術史を通して世界史を学ぶこともできるかもしれません。そうであれば、世界史を学ぶ中学生や高校生にとっても、有益なのではないでしょうか。もちろん、日本の美術史を同時に学ぶことで、歴史の縦(時代)と横(地域)から世界史と日本史をリンクさせることができます。そうして学んだ教養は、一段と国際化が進む将来の人材にとって大きな糧となるに違いありません。


[1] 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年7月)」(2022年8月29日発表)
[2] 帝国データバンク「企業が求める人材像アンケート」(2022年9月12日発表)
[3] 木村泰司、『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』、ダイヤモンド社、2017年

(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)

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