注意したい『ヒト・モノ・カネ』|財務会計のイロハのイ
2023.01.10
約一年半にわたって掲載してきた「財務会計イロハのイ」の財務分析の基礎編もいよいよ大詰めです。これまで「ヒト・モノ・カネ」の「カネ」の部分についてのレクチャーが中心でしたが、「ヒト・モノ」に関する定性情報も外す事はできません。何をどのような目線で見れば良いのか、しっかりとポイントを押さえていきましょう。
新入社員「『ヒト・モノ・カネ』の注目ポイントでしたね。この『カネ』は、主に決算書の財務分析など、定量情報という理解で良いでしょうか?」
先輩社員「基本的にはそうですね。ただ、決算後の情報として、手形サイトの延長要請や、支払期日の延長要請、現金払いの比率が低下してくるといった動向も、『カネ』に関わる危険シグナルの例です」
新入社員「支払い担当がなかなかつかまらなかった、と倒産直前のケースで耳にしたことがあります」
先輩社員「『ヒト』に重なる部分ですが、それも一例ですね。『ヒト』については、まず社長といったトップの動向に着目です」
新入社員「やたらと羽振りがよさそうだったりすると、私なら少し警戒しちゃうかもしれません」
先輩社員「公私混同が目立つ、または、数字音痴といったところにつながりそうですね。他には、出社がいつも遅かったり、そういった態度が社風に影響して、従業員の来客や電話対応が不快に感じる、といったこともチェックポイントとして挙げられるでしょう」
新入社員「訪問した時に整理整頓がされていなかったり、なんだか活気が感じられないという事もありますよね。従業員の退職が続いているというケースも気になります」
先輩社員「一方で、営業規模の割に社員が急増しているというケースも注意したいところです。それだけ人件費がかかりますので、売上がついてきているか、資金繰りは安定しているか、決算書の情報とともに確認すべきでしょう。では、『モノ』はどのような点に気を付けるべきだと思いますか?」
新入社員「そうですね…まずは、やはりその会社の主力商品の売れ行きが順調かどうか、というところでしょうか。販売先の倒産や、そうでなくても、大量の返品やトラブルの噂は見逃したくないですね。在庫状況にも気を付けたいですが、倉庫を見られるチャンスはまちまちでしょうね」
先輩社員「営業担当との関係性にもよりますが、決算書上、棚卸資産が大きく動いていれば、製品在庫の急増・急減と合致しているか、ヒアリングにより理由とともに把握できると理想的ですね。回答が曖昧だったり、決算と逆の状況だと、在庫管理が杜撰である可能性が考えられます」
新入社員「『モノ』については、仕入れから製造、販売までの過程をイメージするとよさそうですね。どこかでトラブルが発生していたら、供給が滞ってしまう可能性がありますよね」
先輩社員「その通りです。上流では仕入先の撤退や、高い価格での仕入れがないか、そして製造工程については、先の在庫の話がありました。納品への流れでは、納期遅れや不具合品の多発、または、製品価格のダンピングも、その背景を探りたいです」
新入社員「ダンピング、とはどのような意味ですか?」
先輩社員「考えにくいほど安い価格で商品を投げ売り販売しているようなケースを指します」
新入社員「そんなことをしていたら、採算が取れないんじゃないか、と心配になりますよね」
先輩社員「様々な商製品の価格が高騰している昨今では、あまり考えにくいですが、時流と逆行する動きが目立つ場合は、やはり注意したいポイントですね。決算書は基本的に年1回、しかも我々が目にするときは、あくまでも過去データですので、それだけで判断することのリスクがわかると思います」
新入社員「決算書を学んでいくうえで、それだけではわからないことに対する理解も深まったと感じます。ですが、企業の良し悪しの判断がいかに難しいことかも改めて実感するようになりました」
ポイントの整理
・【与信管理運用の基礎】第13回:危ない会社のチェックリスト
◆関連コラム
■役員・大株主と企業との関係を捉える<登記・役員・大株主>
■従業員数・設備の内容から「ヒト」「モノ」の能力を測る<従業員・設備概要>
■社長の経営経験・リーダーシップを判断<代表者>
■企業の歴史は将来を占う指針<系列・沿革>
■支払い・回収条件は?取引先との関係は?<取引先>
■企業の現在と将来像をつかむ<現況と見通し>