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  • 新紙幣が7月にスタート、これからのお金はどう変わる?~景気のミカタ~

2024.04.19

新しい紙幣の発行を間近に控えるなか、デジタル通貨の先行きにも注目

今回の景気のミカタは、7月に発行がスタートする新しい紙幣と同時に、デジタル通貨の議論が急速に進むなかで、今後私たちが使うお金がどのように変わっていくのかについて焦点をあてています。

新しいデザインの紙幣が7月に発行スタート、お金のデジタル化も議論が急加速

図表1
2024年7月3日、日本銀行は新しいデザインの紙幣の発行を開始します。1万円札は「日本近代社会の創造者」と言われる渋沢栄一、5千円札は生涯を通じて女性の地位向上と女子教育に尽力した教育家の津田梅子、千円札は破傷風を予防・治療する方法を開発した微生物学者で「近代日本医学の父」と呼ばれている北里柴三郎の各氏が、肖像に選ばれています[1]。

こうしたなか、4月17日、財務省や日本銀行などによる「CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議」について、デジタル通貨の中間整理が公表されました[2]。そこでは、経済・社会のデジタル化が急速に進展、キャッシュレス決済サービスの利用が広がっていることが指摘されています。そして、これを前提としつつ、日本においてCBDCを導入することを予断することなく、仮に導入する場合に考えられる制度設計上の主要論点への考え方などが述べられています[3]。
いま、お金のデジタル化は、さまざまな分野で議論されている非常にホットな話題と言えるでしょう。

高額紙幣の扱いは各国とも悩みの種に・・・

図表2
実は、いまから8年ほど前、1万円札廃止論が日本銀行内で注目を集めていました。欧州では、2016年5月にECB(欧州中央銀行)が2018年末で500ユーロ紙幣の発行を停止することを決めた時期とも重なります。

高額紙幣廃止を理論・実証両面で支えているのが、ケネス・ロゴフ著『現金の呪い』という本です[4]。本書において、著者は現金の高額紙幣が違法取引や脱税などを助長するとして、徐々に現金を廃止していくことを主張していました。

ただし、本書では、段階的に高額紙幣を廃止していくために、1.最終的な目的は追跡不能な匿名取引の実行を困難にすること、2.移行には10~15年以上の時間をかけること、3.銀行口座を持たない貧困層にはデビットカードの提供など救済策を講じること、を目的とすべきことが述べられています。

また、高額紙幣をなくすことで、税の公平性・効率性を向上させるとともに、マイナス金利政策の効果を高めることもできるということも知られています。

実際、ECBが500ユーロ紙幣の発行を停止すると決めたのは、高額紙幣がマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用されていることへの懸念や、テロや犯罪の資金源を断つことが目的とされています。また、高額紙幣廃止論を後押ししているのはフィンテック(金融とITの融合)の普及という外部要因もありました。

一方で、日本についてみると、現金流通残高の対名目GDP比率は21.9%(2023年)となっており(図表1)、BIS(国際決済銀行)のCPMI(決済・市場インフラ委員会)加盟国・地域のなかで突出して高くなっています。また、日本は現金流通残高に占める最高額面紙幣(1万円札)の割合が90%と圧倒的に高いのも特徴です(図表2)。

2014年に消費税率を8%に引き上げた際、現金志向が強い日本ではお釣りの1円玉が不足すると予想され、1円硬貨の発行枚数を大幅に増やしたことがありました。しかし、現実には電子マネーの普及等もあり1円玉の流通量は減少する結果となっています。日本では高額紙幣が使われるのではなく、少額取引の硬貨が使われなくなるという形で現金の使用が縮小しているのです。

バブル経済期には1万円札を超える高額紙幣を発行すべきという論調もみられましたが、いまや高額紙幣廃止論へと貨幣制度に対する考え方は変化しています。しかし、日本では現金使用を前提とした習慣や取引慣行も多く残っているのも確かです。

同時にデジタル通貨に対する議論も急ピッチで進んでいます。今後、私たちが使うお金の姿がどのように変化していくのか注目です。


[1] 詳しくは、日本銀行の改札・改鋳や、独立行政法人国立印刷局の新しい日本銀行券特設サイトなどを参照。

[2] 財務省、「CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 中間整理

[3] 中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは、中央銀行が発行するデジタル通貨のことであり、中央銀行が法定通貨建てで発行する、デジタル化された中央銀行マネー(銀行券と中央銀行当座預金)と定義される。CBDCについては、過去に当コラムでも取り上げているので、参照してほしい。「ロシアのウクライナ侵攻で加速する『中央銀行デジタル通貨』の行方~景気のミカタ~」(TDBカレッジ、2022年4月15日公開)

[4] 原書:Kenneth S. Rogoff, "The Curse of Cash", Princeton University Press, 2016

(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)

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