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  • 株価上昇の背後にPBR改革あり~景気のミカタ~

2024.05.24

株価上昇の背景、上場企業のPBR向上への取り組み

今回の景気のミカタは、日本の株価が上昇している一因として、東京証券取引所のPBR改革が背景にあることについて焦点をあてています。

国内景気は2カ月ぶりに悪化

図表1
2024年4月の国内景気は、外国為替レートが一時1ドル=160円台をつけるなど34年ぶりの円安水準で推移するなか、原材料価格の高止まりや2024年問題への対応といったコスト負担増、不十分な価格転嫁などがマイナス材料となっていました。

一方で、円安により活発なインバウンド消費を中心に観光産業が堅調だったほか、商業施設や小型の店舗などに向けた工事関連、人手不足に対応する各種サービスや省人化投資などはプラス材料でした。

これらを背景として、国内企業による景況を総合的に表す指標である景気DIは、前月から0.3ポイント減の44.1となり、2カ月ぶりの後退を示すこととなりました(帝国データバンク「TDB景気動向調査」)(図表1)。

今後の国内景気は、外国為替レートに不確実性がともなうものの、緩やかな持ち直し傾向で推移するとみられています。とりわけ、政策金利引き上げのタイミングや日米の金利差、海外の政治・経済情勢などにも左右されるでしょう。

こうしたなかで、日経平均株価は2月に史上最高値を更新、3月4日には4万円を超える水準まで上昇しました。5月に入ると3万8千円台での推移が続いていますが、年初から比べると6千円以上も高まった状態です。

株価上昇に一役買ったPBR(株価純資産倍率)改革

図表2
日本の証券市場で株価が急上昇した背景には、企業業績の回復や円安による海外輸出の活発化、マイナス金利解除による金融政策の正常化など、日本経済の先行きに対する見通しの改善といったことがあげられるでしょう。

これらと同時に、東京証券取引所が行ったPBR(株価純資産倍率)改革に対する成果が株価上昇として表れてきたとも考えられています。

東京証券取引所は、2022年4月に市場区分を見直し、上場企業の持続的な価値向上を促進するための新しい基準を導入しました。2022年7月当時、PBRが1倍未満の企業はプライム市場で50%、スタンダード市場で64%にのぼっていました。

これに対して、米国や欧州では、PBRが1倍未満の企業はそれぞれ5%と24%で、日本の状況がこれらの地域に比べて大きく劣っていることは明らかでした。また、ROE(自己資本利益率)も同様の傾向にありました。そこで、東京証券取引所は2023年3月31日、全上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営の実現を促すための対応を要請するに至ったのです。

特に、PBRが1倍未満の企業に対して、資本コストを超えるリターンを生み出すための具体的な行動計画や資本コストの説明を公開するよう要請しています。この施策は、日本の企業の収益性と株主価値を向上させることを目指していると言えます。

なかでも重要なのは、経営層が資本コストや株価についてより意識するようになったことでしょう。決算説明会においてPBRが1倍を下回る企業では、これを改善するための具体的な取り組みが説明資料に記載されるようになっています。各社の具体的な改善策には、経営資源の適切な配分、人材投資、報酬制度の見直し、株主・投資家との対話の充実などが含まれています。結果として、市場全体のPBRも上昇するなかで(図表2)、PBRの水準が低い企業ほどその後の株価の上昇が高くなっており、投資家から自社株買いが好感されることにつながりました。

これらの改革は、日本の株式市場の透明性を高め、企業価値の向上を促すための重要なステップですが、さらなる努力が必要とされています。これにより、国内外の投資家からの関心が高まり、より多くの資本が日本市場に流入する一因となりました。その結果として、不断の努力と改革が日本の株式市場の活発化と株価の上昇に寄与することになったと言えるでしょう。

(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)

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