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  • 景気の改善が価格転嫁の遅れに足をすくわれるのか!?~景気のミカタ~

2024.09.20

国内景気が持続的に回復するためにも価格転嫁は必要だが・・・

今回の景気のミカタは、国内景気に改善傾向がみられ、価格転嫁も少しずつ広まりを見せるなかで、生活必需品の値上げによる消費者の節約志向の高まりについて焦点を当てています。

8月の国内景気、全国的な猛暑のなかで観光産業が堅調

図表1
帝国データバンクが実施した景気動向調査によると、2024年8月の国内景気は2カ月連続で改善しました(図表1)。8月の日本経済は、全国的に猛暑となるなか、地震や台風の影響を受けながら推移することとなりました。

なかでも観光産業は、「世界最高の国ランキング」で日本が2位へと上昇するなど[1]、8月で過去最高を記録した訪日観光客によるインバウンド消費の増加が好調でした。また、お盆シーズンにともなう外出機会の増加も景況感を押し上げる要因となっています。

さらに猛暑によって飲料や冷菓、喫茶店など飲食関連、熱中症予防に関連する商品、冷房設備工事などの需要が拡大したほか、自然災害に備えた駆け込み需要もみられました。加えて、半導体関連の設備投資が好調であることや、価格転嫁の拡大も好材料となっています。

今後の景気については、実質賃金の上昇の持続性、市場金利や外国為替レートの動き、アメリカ大統領選挙の行方などが注目されます。インバウンド消費を含む観光産業の回復、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やグリーンエネルギー政策の影響、人手不足への対応として行われる自動化やロボット技術への投資などが増加すると見込まれます。さらに、生成AIの普及や半導体の需要増加もプラス要因となるでしょう。

特に個人消費は、実質賃金が所定内給与やボーナスの大幅な増加を受けて6月と7月の2カ月連続で前年同月比プラスとなりました。また、人手不足が続くなかで、求職者有利となる売り手市場の雇用状況が続くと予想されているため、雇用・所得環境は徐々に改善するとみられます。さらに、8月から再開された電力やガス代の負担軽減策も消費動向にプラスの影響が見込まれるでしょう。

他方、物流コストの上昇やインフレの進行、人手不足、家計の節約志向、国際的な緊張などはマイナス要因になると予想されます。

さらに、9月には食品の値上げが1392品目と、5カ月ぶりに1千品目を超える見通しです。こうした生活必需品の価格上昇が、家計の節約志向をさらに強める可能性はあります。加えて、さまざまなレジャー施設の入場料も相次いで引き上げられています。これらの要素から、基礎的な支出にかかる負担が増えるなかで、教養娯楽費などに関する選択的な支出は抑えざるを得ないとみられます。

こうした状況が見込まれる日本経済において大きな懸念材料があります。それは「価格転嫁」の遅れです。

価格転嫁率は44.9%、少しずつ広まるが懸念材料も

図表2
帝国データバンクの調査[2]によると、自社の商品やサービスのコスト上昇に対して、7月時点では78.4%の企業が多少なりとも価格転嫁できていると考えていました。価格転嫁率は44.9%で、前回からは4.3ポイント上昇しています(図表2)。

企業からも「価格高騰がユーザー目線でも一般化してきたため、価格転嫁が進んでいる」(建設)、「原材料価格の高騰に対して、販売先と認識を共有できている場合は、価格転嫁がしやすい」(機械・器具卸売)といった声が聞かれています。

価格転嫁への理解は少しずつ広まっており、実際に価格の転嫁もじわじわと進行しています。しかし、原材料価格の高止まりや人件費の増加などに加えて、他社の動向や消費者の節約志向なども考慮すると、「これ以上の価格転嫁は困難」という意見も多く寄せられています。そのため今後は、価格転嫁の進行が頭打ちになる可能性も考えられます。

政府の価格転嫁に対する支援策は一定の成果を上げているようです。とはいえ、現状を打開するためには、原材料の安定供給を目指す政策や賃上げの支援を継続するとともに、購買意欲を刺激する大規模な減税など、収入増加につながる多角的な経済政策が必須となるでしょう。

[1] U.S. News & World Report, “The 25 Best Countries in the World”, Sept. 10, 2024
[2] 帝国データバンク、「価格転嫁に関する実態調査(2024年7月)」(2024年8月28日発表)

(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)

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